過去ログ - 男「ここにいたんだ」
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87:名無しNIPPER
2016/08/19(金) 20:22:42.01 ID:F+nlZ94w0
 カラン、と乾いた音が響く。

 もう飲み干したのか。

「明日……その」

 と、何かを言いかけて、コヨミちゃんは口籠る。右手は缶を握っている。

 蝉の声が響く。

「明日?」

 尋ね返すと、コヨミちゃんは「やっぱりなんでもないです!」と言って、勢いよく立ち上がった。
 ジャリっ、と地面を踏み鳴らして、こちらを振り返る。

 手に握られたアルミ缶は、少し凹んでいた。

「じゃ、私、妹達が待ってるんで、帰ります!」

 おう、またね、と言うと、コヨミちゃんは駆け足で公園の入り口に走っていった。

 俺は缶ジュースに口をつける。ぬるい。

「あ、コヨミちゃん」

 ふと、この間の帰り道を思い出して、走っていきそうだった背中を呼び止める。

「え?」

 キョトン、とした表情で、振り返るコヨミちゃん。

「……それ、持って帰ろうか? 俺の方が家近いし」

 と、右手に握られた、少し凹んでいるアルミ缶を指差す。

「……いえ、大丈夫です!」

 コヨミちゃんは、では! とおどけて敬礼のポーズをすると、曲がり角を曲がって、あっという間に、見えなくなってしまった。

 公園には、俺と、セミの鳴き声だけが残った。


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