過去ログ - モバP「誰かの夏と終わり」
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16:名無しNIPPER[saga]
2016/08/27(土) 22:16:42.45 ID:Si0tSdr+0
「そうだなぁ……」 

 プロデューサーは、立ち止まった。少し、考えるそぶりをみせた。

 あたしも立ち止まる。胸の鼓動が早くなる。

「今日の長さとハードさのプログラムこなすなら――」

 とん、と。不意打ち気味に肩を押され。

「あ、え……?」 

 それだけであたしはよろけて、

「あと3倍は体力付けないとなぁ」

 もう片方の手で抱き止められた。
 
「あ、はぁ、ふ……ぅ?」 
 
 あたしはしばらく、何が起こったかわからなくて。

 でも、プロデューサーの腕の中で、自分の荒い呼吸にやっと気が付いた。

「頑張りすぎだよ、葵」 

 その優しい顔に、情けなさより、恥ずかしさより、やすらぎが勝った。

「…………うん」  
 
 あたしはまだ、この人を頼っていいんだと思った。

 もう俺なんかいなくても大丈夫だなと言われていたら、あたしはどんな顔をしていただろう。

 あたしは、見透かされたかったのかもしれない。

「……あーあ、プロデューサーには、かなわんちゃねえ……えへ、めんどしい……」

 言い訳を手に入れたあたしは、もう、ためらわなかった。

 もたれかかり、浴衣の胸元に頭を預けて、支えてもらうことにきめた。

 手を背中に這わせ、もう少し伸ばして、プロデューサーの手にたどり着く。

「握っちゃる……へっへー、離さないっ」

 握り返してくれる感触が心地よかった。 

 ゆっくり、あたしたちは石段を上り始める。ここなら、歩幅の違いは、関係ない。

「あたしね、こういうの……憧れだったっちゃ」   
 
 月の光の冷たさとは裏腹に、熱にうかされたみたいに、あたしの口は勝手に動いた。

「こっちにいる頃は、家の手伝いでほとんど出れなかったから。もちろん、家の手伝いは好きだし、そのおかげで料理上手になったのも、感謝してるっちゃ。だけど……」

 屋台に同級生が来て、買ってくれたその後姿を見るたびに、うらやましかった。

「た……大切な人ができたら、いつか、って、そう思ってた」

 まさか十も年上の男の人と、とは、思わなかったけど。

「いっしょに居られて、うれしいっちゃ」

 石段を上り詰める。鳥居を見上げる。 

 草履の音が止む。


 見ているのは、神さまだけだった。


 ゆっくり、ゆっくりと、重なっていた影が離れて。

 そして寄り添って、境内に足を踏み入れる。



 屋台も花火も音頭さえない、あたしたちの祭り。
 




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