3: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/21(日) 23:37:33.83 ID:Aj1Xs5gP0
視線を上げる。薄緑の壁に浮かぶ青いデジタル文字は、無機質に午前十時を表示している。横に浮かぶ天気表示は雨。その下を走るニュースのタイトルに興味の沸くものはなかった。昼食にはまだ早い。仕方ない、雨でも散歩に行くか。と、立ち上がろうとしたとき、凄まじい雷光が窓の外からわたしの影をテーブルに投影した。
完璧な防音処理はわたしの命を奪いかねないな。なんて意味のない言葉を頭に転がした。都市部では落雷による死亡者なんて、もう何十年も出ていない。人類はあらゆる災害に対策してきたのだから当然だ。それなのに、わたしの外出する意欲は削がれる。どうやら本能的に恐怖するものがあるらしい。
背もたれに身体を預けると、エアマットは優しく包み込んでくれる。使用者に負担をかけないよう設計されたエアマットチェアだけど、どちらかというと眠気を誘う効果のほうが大きいと思う。
一定に調節される室温と空気清浄機能も、ヒーリング効果のあるほのかな緑の香りも、完璧な防音も、わたしの眠気を誘う効果を増大させる。便利になりすぎるのも考えものである。
わたしの部屋はわたしを飼い殺すための檻なのかもしれない。もっとも出不精なのは元々だけど。今じゃ研究室も同じような作りなので、どこへ行っても変わらない。まあ、危険な部屋というのもいやなのでこのままで構わない。
それに、余計なことに気を遣わなくていいのは、そう悪い話ではない。思考するにしても作業するにしても、一番の敵は環境だ。人間の身体はわたしたちが思う以上に高機能であり、自覚している以上の情報を得て、処理に脳のリソースを割き、取捨選択の末に意識にフィードバックしている。だから、余計な情報を予め排除してやれば、わたしたちはその機能をより利用できるのだ。
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