過去ログ - アンパンマン「ばいきんまんはもういない」
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オータ
◆aTPuZgTcsQ
[sage]
2016/08/23(火) 15:26:47.21 ID:Yu37ZZYbO
ばいきんまんの声が再び聞こえた。
でもそれは聞き間違いだと思いたかった。
ぼくはさっきよりさらに青ざめて、扉を力一杯蹴る。
「ばいきんまん、しっかりして!ぼくが助けるから!」
ぼくは扉を何度も蹴った。
分厚い扉は少しずつ少しずつ歪んではいるものの、外れる様子はない。
繰り返している内に、足にも痛みが走るようになる。
それでもぼくは蹴った。
そして、やっと、中が見えるぐらいの隙間ができた。
「ばいきんま……」
中を覗き込んだぼくは言葉を失った。
いまだにぼくは、その様子を言葉にする勇気はない。
でもあえて言うなら、悪い夢をみているかのような、そんな光景だった。
「アンパンマン……ドキンちゃんは大丈夫だったか?」
「うん……」
「そうか……なら良かったのだ」
壁際に座り込んでいたばいきんまんは、肩で呼吸をしながら、床に落ちていたボロボロのリモコンを手に取った。
ぼくは声をかけられずに、その様子をただ見守った。
「アンパンマン、お前に頼みがある」
「なぁに……?」
「このメカを壊して欲しいのだ。今すぐに」
ぼくは驚いて首を横に振った。
「そんなこと出来ないよ!まずは君を助け出さなくちゃ!」
「このメカはすっごいメカなのだ。今までとは違う。
おれさまが直さなくても、勝手に修理を始めるんだぞ。
そうなったら、おれさまにはもう止められない」
「でも!」
「……きっと、こんなもの作ったから、バチが当たったのだ。
おれさまはお前とケンカしてるだけで楽しかったのにな」
ぼくはなにも答えられずに、ばいきんまんの顔を見た。
ばいきんまんは笑っている。
「お前が全力で相手してくれたから、おれさまも全力でいられた。
悔いはないのだ!」
「いやだよ……いやだ!」
ぼくは扉を再び蹴った。
けれどばいきんまんには届かない。
ぼくの声も、足も、彼のいる場所には届かなかった。
なんど蹴っても、扉は動かない。
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