23: ◆TDuorh6/aM[saga]
2016/08/23(火) 23:41:55.28 ID:zjxhfud6O
車の中で他愛のない会話。
久し振りのそれが、何故だかとても嬉しい。
この後に起こる事を分かっていても、それでも。
いや、だからこそ。
このひと時が、とても幸せだった。
「よし、着いたぞ」
やっぱり、あっという間。
ここで降りればまたいつも通り。
けれど、今回だけは違う。
苦しい気持ちを押し切り、私はなんとか口を開いた。
「…もう少しだけ、お話しませんか…?」
「え、構わないけど…じゃ、もう少し走るか」
そう言って、再び車を発進させる。
件の交差点まで、あと十数メートル。
タイムリミットは、ほんの僅か。
このまま走れば、また…
けれど、その全てを知っていながらも。
「…プロデューサーさん」
私は、笑って告げる。
「…ずっと、好きでした…ありがとうございました…」
やっぱり、涙は我慢出来なかった。
窓ガラスに映った私は、きっととても不思議な表情をしていただろう。
笑いながら涙をながすだなんて。
それでも、私は伝えられた。
ようやく、貴方に。
そして、返事は貰えない。
それでも、どうしても…
驚いた表情のプロデューサーさんが、此方を向く。
その奥からは、信号無視をした車が突き進んでくるのが見える。
あの1秒も、時間は残されていないだろう。
でも…
最期に、貴方の顔を見れて良かった。
衝撃、次いで轟音。
分かっていた結果が、運命通りに起こる。
けれど不思議な事に痛みは無い。
だから私は、最後まで貴方の事を見つめ続ける事が出来た。
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