過去ログ - 鷺沢文香「読み終えたら、またここに来てください」
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2: ◆.qG5SOGbi.
2016/08/28(日) 16:22:25.49 ID:3ZgXLCZE0
僕は、別に本が好きではなかった。
読むのが苦であったわけではない。だが、だからといって大きな休み時間には図書館に足を運ぶというような、そんな殊勝な子供でもなかった。
この場所が古本屋だったことも知らなかったし、入った理由だってただの雨宿りだ。店の屋根にこそ助けられど、店の中にまで用があるわけがない。この降り方はにわかだ、焦らずとも少し待っていればすぐに家へ帰ることができただろう。
だが、そういったものとは裏腹に、僕の足は店の奥、カウンターの前へと僕を運んでいった。

以下略



3: ◆.qG5SOGbi.
2016/08/28(日) 16:24:44.71 ID:3ZgXLCZE0
「……あの」

先に静寂を破ったのは、僕の方だった。

「……あっ、はい……」
以下略



4: ◆.qG5SOGbi.
2016/08/28(日) 16:30:44.28 ID:3ZgXLCZE0
「その……つまり、本をお探しなのでしょうか?」

「えっ……あっ、はい」

「……どのような本でしょうか」
以下略



5: ◆.qG5SOGbi.
2016/08/28(日) 16:33:10.14 ID:3ZgXLCZE0
一人居心地悪いまま佇んでいると、しばらくして、彼女が大量の本を抱えて、おぼつかない足取りで戻ってくるのが見えた。彼女が本をゆっくりとカウンターに下ろすと、視界が本でいっぱいになったので、少し左側に体を移動させた。

「…あの、これ……」

「…その……お客様が本をあまり読まないようでしたので…私なりに、読みやすいものを選んでみたのですが……」
以下略



6: ◆.qG5SOGbi.
2016/08/28(日) 16:34:55.28 ID:3ZgXLCZE0
結局のところ、僕は彼女と少しでも長く話したかったのだ。ただ、その方法があまりにも一方的自己中心的なものであったために、彼女にさらに度を越えた親切を求める羽目になってしまったのだが。彼女はそんな迷惑な子供に対して、一つ一つの本のことを、まるで自分の子供を自慢するかのように語ってくれた。僕はそれを、絶対に聞き逃さまいとじっと聞いていた。

どれくらい時間が過ぎたか分からなかった。彼女は全ての本を語り終えた。

「…これで、全てですね。興味を惹くものはありましたか?」
以下略



7: ◆.qG5SOGbi.
2016/08/28(日) 16:39:43.24 ID:3ZgXLCZE0
気づけば、僕は涙を流していた。読書を中断させてまで店の奥からたくさんの本を引っ張り出させて、そして語らせ、そこまでさせて本一つ買えない。その事実があまりにも情けなく、涙を止めることを許させなかった。

彼女は、そんな僕を黙って見ていた。そして、自らの財布から500円玉を取り出すと、本とともに僕の手の上に置いた。

「……えっ?」
以下略



8: ◆.qG5SOGbi.
2016/08/28(日) 16:42:09.97 ID:3ZgXLCZE0
「では、その本を読み終えたら、またここに来てください」

「はい」

「……お待ちしていますね」
以下略



9: ◆.qG5SOGbi.
2016/08/28(日) 16:43:19.08 ID:3ZgXLCZE0
続き書いてきます


10:名無しNIPPER[sage]
2016/08/28(日) 16:54:04.50 ID:bF7UiVVEo
素晴らしい


11:名無しNIPPER[sage]
2016/08/28(日) 21:13:19.97 ID:Qs72bw+wO
これはいいふみふみ


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