過去ログ - 鷺沢文香「読み終えたら、またここに来てください」
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55: ◆.qG5SOGbi.
2016/09/20(火) 04:14:48.41 ID:v95LF+Hh0
一歩足を踏み出すたびに、一つだけ若返っていくように感じてしまう。
きっとつま先がカウンターにくっつく頃、僕の心は彼女と初めて出逢った頃に戻っている。
一歩一歩、焦らずに確実に前へ進む。
近づくたびに分かる。何年も経ったのに、彼女は、あの頃とほとんど変わらないままだ。
変わったとすれば、僕だ。
あの頃同じ高さだった彼女の目線は、今はもう、交差しないところまで低くなっていた。

彼女が、不思議そうな顔で僕を見上げた。本当に、変わっていない。慌てるな。震えないように必死になりながら、声を出した。

「お久しぶりです」

「……お久しぶりです」

彼女は、じっと僕を見つめていた。
彼女が本当に覚えているかは分からない。変な客として、これから先の彼女の記憶に残っても構わない。ただ、これは僕のけじめだ。

僕は持っていた鞄から本を取り出すと、鷺沢さんの前に、それを差し出した。


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