5:saga
2016/09/05(月) 23:10:56.07 ID:xnnNaHcHO
予定していた旅館に着くと食事をすませ、風呂に入り、浴衣に着替えた。
「あーっ!ほんとに旅行やあ!」
三葉は唐突に口を開く。
「どうしたんだよ急に」
「いやあ、ずっと住んでた町もこうして見ると違うもんやなあって。……17年も住んでた町に来るのに、ちゃんと旅行になるもんやなあってね」
「そういうもんかあ」
「そういうもんやよ」
高校の時は何もかも嫌だったのにね、そう言って三葉は薄く笑う。
真冬の渓流みたいに、顔も手も皮膚が透き通る様に青白いのに、頬だけが朱に染まっている。
ほろ甘い体臭が感じられそうなその浴衣姿に目をそらす事が出来なくなってしまった。
やがて、そうする事が自然な気がして、俺は電気を消し、三葉に口づけした。
暗闇の中で静かに衣ずれの音が聞こえた。
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