過去ログ - 佐久間まゆ「あなたを待ちわびて」
↓ 1- 覧 板 20
16: ◆dCFehqwTmo[saga]
2016/09/06(火) 22:57:18.65 ID:RE0Y+nXd0
「プロデューサーさん」
二階の自室、廊下をはさんだ向かいが客間で、あなたはここに泊まることになった。
17: ◆dCFehqwTmo[saga]
2016/09/06(火) 23:01:07.83 ID:RE0Y+nXd0
六畳一間の客間。普段は中央にテーブルを置いているが、端に寄せられ、今は布団が敷かれている。
窓の外には、都会では見ることの叶わない数多の星々が見える。
部屋のわきにはスーツが掛けられ、その真下にはあなたの荷物が置かれている。
あなたはシックな柄のスウェットに身を通し、布団の上に座っていた。
そのスウェットに見覚えはなかった。
18: ◆dCFehqwTmo[saga]
2016/09/06(火) 23:03:19.14 ID:RE0Y+nXd0
「まさか、こんな日が来るとは思いませんでした」
「……ほんとだな」
ふう、というため息とともにあなたは応える。
19: ◆dCFehqwTmo[saga]
2016/09/06(火) 23:05:50.00 ID:RE0Y+nXd0
「まゆ、きみ……お母さんになにか言った?」
「いいえ……わたしもまさか、こんなことになるなんて……」
これは本心だった。
20: ◆dCFehqwTmo[saga]
2016/09/06(火) 23:15:28.86 ID:RE0Y+nXd0
……そのまましばらくの間、わたしはあなたの声を待った。
あなたは何度もわたしを伺っては、所在なさげに目を泳がせるばかり。
それでもあなたは、わたしを拒むことなどない。
むかしのあなたなら、きっとわたしを振りほどき、わたしが部屋に入ることさえ断ったはずだ。
もしかしたら、あのとき無理にでもホテルに帰っていたのかもしれない。
21: ◆dCFehqwTmo[saga]
2016/09/06(火) 23:16:07.82 ID:RE0Y+nXd0
「……」
「……」
22: ◆dCFehqwTmo[saga]
2016/09/06(火) 23:26:35.94 ID:RE0Y+nXd0
いま、あなたは何を感じているの?
いま、あなたは何を思っているの?
こんなに近くにいるのに。あなたの呼吸の音すらはっきりと聞こえる距離にいるのに、あなたは何も話さない。
……ちょっと前までのわたしなら、きっとすぐにあなたを求めていたでしょう。
あなたとのシルシが、キズナが見えていなかったあの頃のわたしなら、きっと。
23: ◆dCFehqwTmo[saga]
2016/09/06(火) 23:27:04.93 ID:RE0Y+nXd0
「……」
「……」
24: ◆dCFehqwTmo[saga]
2016/09/06(火) 23:38:49.67 ID:RE0Y+nXd0
あなたは何も話さない。
ねえ、あなたに出会ったあの日のこと、覚えていますか?わたしは今でも覚えていますよ。
読モ時代、スタッフさんの厚意で広島に旅行したときのことでした。
景色に見とれていたわたしがあなたにぶつかったとき、あなたをひと目見たあの瞬間……!
それは、なんと名付ければよかったのでしょう。
25: ◆dCFehqwTmo[saga]
2016/09/06(火) 23:39:48.84 ID:RE0Y+nXd0
「……」
「……」
26: ◆dCFehqwTmo[saga]
2016/09/06(火) 23:48:36.49 ID:RE0Y+nXd0
わたしはあなたの声を待つ。
あなたがいて、わたしがいる、ふたりきりの六畳一間で。
それは、一瞬のようでいて、永遠にも等しいと思うような時間。
ただ、あなたを待ちわびるこのひとときに、いつまでも浸っていたい。
50Res/21.00 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。