887: ◆e6bTV9S.2E[saga]
2017/03/12(日) 03:58:28.88 ID:4dnj8I430
『研究に取り巻くエゴ』
「フーン、相棒(バディ)は無事だといいけど」
連絡用の無線を封鎖し、WWPに対抗する組織に接触する為に活動しているカミロが、小休憩で入った小さなオフィスの中に居て、そうこぼしていた。
彼は元々WWPに組した研究者だ。WWPの関係者が彼の前に現れ、行っていた研究を第三次世界大戦に役立つものに転用を持ちかけた。彼は、躊躇なく同意した。
WWPの目的は、その当時、周辺国を軍事により併合を進めていたロシアを対象としていた。そのロシアに対して抵抗を続けていたのは中国。まだ完全に掌握される前のその中国に、カミロは妻と共にいた。
彼は植物学者であり、交配種を生み出すのが主な研究内容だった。未知の植物はアマゾン地帯が有名だが、中国の高地に生える植物や、その地元住民しか知らない薬草などは存在する。カミロの目的は非常にシンプルで、湿地帯にはない植物で求める交配可能な植物を探し出すこと。
だが、その頃から中国への渡航中止勧告が出されるほどの予断を許さない状況。しかし、彼の中にあった探求心がそれに目を閉じさせ、心配した彼の妻が帰るのを説得させる為に同行していた。今思えば、それに従うべきだったとよぎる度に、カミロはため息をつくしかなった。
妻はもういない。己の無謀により、戦闘に巻き込まれ、あっけなく死んだからだ。浅はかさを呪う余裕もなく、逃げ回るしかなかった。命からがら母国に戻った彼に残されたのは、その死によって欠けてしまった日常。
復讐を誓っていた、彼は無謀にも研究(しごと)の合間や休みをトレーニングと、戦闘術を学ぶ時間にすべて費やした。目つきは鋭くなり、いつしか周りの信頼する仲間さえも失い、そこにWWPが代わりに、彼はやってきたように思えた。
そのノウハウを使い、倫理から手放され憎しみに捕らわれた心で、彼は幾多の作品を生み出したと言っていい。だがそれは、彼の最高傑作を生みだすまでの廃棄物でしかなかった。
無念を訴える作品達を見た彼は、徐々に自身が行っていることに疑問を持つようになった。それは肥大し、そして確信に変わり、また自分は取り返しのつかないことをしたことに気づき、今度こそ本当の償いをする為に行動を移した。
次こそは、間違えない為の戦い。普段の陽気な姿からは想像できない業(ごう)を、彼は背負っている。そして、ゾンビと戦うたびに、自分の研究がこういう結果を招いた可能性に怯え。もしかしたら何らかの関連性があるかもしれないと苦悩する。
一生この罪(じゅうじ)を背負い続けることには、完全に気づき(みとめ)きれていないが、それでも彼は変わろうとしている。それを気づかせてくれた相棒(バディ)の為にも、この接触に失敗は許されない。
「待っててくれよー、相棒(バディ)」
小休憩も終わり、安全を確認しながらオフィスの外にカミロは出る。その足取りは、けして軽くはなかった。
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