過去ログ - これから日記を書く 6冊目
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891: ◆e6bTV9S.2E[saga]
2017/03/14(火) 03:46:47.84 ID:whdP2KU40
『得難きは時、会い難きは友』

「おら、呑んどけ」

相棒がそういってスキットルに入った酒を渡してくる。俺達が何とか都市からここまで移動させた生存者達は、逃げ込んだビル、その階段の踊り場でぐったりと、疲労のせいで全員ひでぇ顔をしてやがった。それに気が滅入る俺には、ありがたい薬代わりに少しあおらせてもらう。

「移動はどうすんだ、保安官様よ」

「へ。このまま強引に正面突破といきてぇがなぁ…」

拍車付きのブーツをわずかに鳴らし、ひびが入った窓ガラスから通りを慎重に見始めた。昔ながらのゾンビ映画さながらのシーンが、相棒の眼下にあるのは間違いなかった。戦えそうな奴には銃は持たせてやったが、ずぶの素人すぎて役に立つとはいえない上、音で奴等は寄ってくるのもあって、俺らのライフルも無闇に使えない。状況は時間を置くごとに悪くなってってる。さてどうするかだ。

相棒は大げさに肩をすくめ、首を振りながらこっちに戻ってくる。仕方なさそうに煙草を咥えて、火をつけて煙を一吐き、ウェスタン調の服装とハットが相まってこいつだけ場違いな状況ってことだ。

「そろそろ休憩だな。夜になったら移動すっぞてめーら」

状況に変わり映えはないが、休めることに生存者達はホッとした顔をしている。さて、俺達に休める時間があるかどうか、神様仏様に聞いたら、答えてくれるかね。



「しかし、今度はどこに出店するよ?」

のん気なことに、俺は頭を抱えたかった。いつも通り自信満々な笑みに陰りはない。この状況で、親しい友達のいつも通りを見るってのは、なんであれ落ち着くもんではあるがな。

「お前な、そういうのはこの状況から脱出してからだろーが」

「へ、言えてる。けどよー、やっと軌道に乗ってきたとこでこれはねーだろ?」

俺も同じ気持ちだ。2人で金を出して作ったBAR、まさかこんな形で失うことになる。誰も予想する訳もない。それだけは間違いなかった。

「…ここだけじゃねーだろうけどな」

顔が真顔になった。ふざけた態度が多い奴だが、頭は切れる。その読みが外れていることは、祈るしかない。



銃弾を受けたカウボーイのように、血まみれ。それでも、相棒は笑みを絶やしてない。左手には、噛み痕。

「へ……。ここまでってやつだな」

「何言ってやがる。外に出りゃあなんとかなる!」

「ならねぇ!!」

笑みは一瞬に消えて、目が野獣に染まる。噛まれれば、ゾンビ(あいつら)と同じになる。それはもう、俺達全員の共通認識。

「てめーらの逃げる時間位は稼いでやる。とっとと走りやがれ!」

生存者が、その迫力に追い立てられるように走り出す。

「へ、これ、預かっててくれや。なかなか高い本革なんだぜ?」

カウボーイハットを、俺に投げ渡して、相棒は次会ったら酒でも飲もうぜと約束させて、背を向けゾンビの群れに、のんびりと歩いて行き、ライフルを構えた。その後ろをわずかなのに膨張する長い時間を感じて、俺はその発砲音と合わせたように、生存者達の後を追った。



「戻るなんて無謀ですよ!」

「だろうな」

死にに行くようなものなんてのは、わかってる。これは、俺が、俺の踏ん切りをつける為に必要なこと、あいつが死んだところを確認できれば、俺は、この都市(ばしょ)から離れられる。

「わりぃが、俺達のしてやれんのはここまでだ。後は持ってる武器で、安全そうなとこにいってくれ」

「でも…!」

「じゃあな」

俺はその後姿を真似たのかもしれない。全く様にはなっていないというのが、悲しいところか。自分に対して皮肉交じりに笑いながら、俺は都市に戻った。それで――。



「…保安官(シェリフ)! 保安官! 起きて!」

「…あぁ、ジェーン。なんだ、寝ちまったか」

なんだか懐かしい夢でも見てた気がすんな。未だに合えないあいつに会ってたような、そんな気分だ。ジェーンが俺を心配そうに見てる。

「誰にだって眠い時はあんだろ? そんな顔すんなって」

「ほんと? それならよかった」

この娘も、俺のどこがいいのやら。そんな俺も、誰とも一緒に居るつもりはなかったのに、こうなっちまってるのは、やれやれ、人恋しってやつか。

カウンターに置いた、相棒のカウボーイハットを被る。俺はまだあいつの死体、あとはゾンビになったとこは見てない。帽子を取りに来るのと、俺達の店で酒を呑みに来る、いつも通りフラッとやってきてな。


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