910: ◆e6bTV9S.2E[saga]
2017/03/31(金) 00:43:49.37 ID:E9JaL7xN0
エクスはサポートチームの自分のデスクに突っ伏していた。かねてからの業務が激務、そして累積していく調査希望内容、時間はいくらあっても足りず、もし仮に人員が増えたとしても、彼まで出なくてもある程度のパソコンに関する知識を持った人材でなければいけない。つまるところ、メンバー増員の希望はどこも望み薄とすれば、サポートチームは絶望的と言える。
もちろん、彼がある程度の教えを施した伊吹がいて、彼女に出来る業務は分散してはいる。しかし、その増えている仕事の大体は、エクスのパソコンスキルで最初に解析、あるいはハッキングすることが前提となっており、結局のところ彼自身にかかる負担自体が減ったかと言えば、難しいところだ。
その状態で彼に降りかかったのが、天才、山海沙維が作ったEVE。彼女の自立行動及び学習機能を搭載した独自言語で生み出されたAI解析。それは、例えるなら密林奥に住む部族しかつかない言語、あるいは地球外の言語を解読するようなものだった。
あらゆる解析ソフトを作成し、解読に挑むも全敗。天才を自負している彼のプライドは、当にズタボロになっている。今も新しく生み出した解析ソフトで試してみたが、結果はいつも通り芳しくはなかった。
キッカケを欲していた。強烈に、このAIの糸口となるものを。
エクスは体を起こし、エラーメッセージが吐き出されるディスプレイを見やる。もうこうなれば、避けていたあの方法を試すしかない。
「VRを使った直接解析だな…」
高度になったVRが引き起こす危険性は、もはや周知の事実だった。『戻れなくなる』という作用は、人をネット世界の住人にさせることはなかった。戻れなくなって残った存在は、その内、ウィルスか何かとして除去されて消えてしまう運命なのだから。
EVEの中にセキュリティソフトの類が入っていれば、明確な防御用ソフトも作成できない今、エクスは一瞬にして抜け殻になる。それは容易に想像できた。そして、だからこそ彼は止められなかった。
自分のプライドを傷つけられたことで、冷静な判断が出来なくなっているのもそうだが、ここまでのものを見せられたなら、全てを知りたい。
家族に起きたことを知るために、今の道を歩んでいる彼には、至極当然の欲求だった。
1002Res/822.82 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。