過去ログ - 前川みくと話せた猫の話。
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10:名無しNIPPER[saga]
2016/09/17(土) 18:27:33.78 ID:RBrPvO4M0

6

 何の前兆もなかった。喧嘩も何もしていなかった。大きなイベントは何もなかった。

「また明日なー」と言って別れた翌日、みくとミケは話せなくなった。

 みくは何度もミケと話そうと試みた。何度も何度も話しかけた。

 ミケは応えた。

「にゃあ」

 と。

 今までも、みく以外にとってはそうとしか聞こえなかったその鳴き声は、しかし、みくにとっては大きく意味が異なるものだった。

 ミケの気持ちが、わからない。

 他の人間にとっては当然のそのことが、みくにとっては当然ではなかった。

 今までずっと話せた存在が、気持ちがわかった存在が……何を言っているのかわからない。何を考えているのかわからない。

 それは、とてもこわいことだった。

 みくにとって、ミケと話せることは当然のことだったのだ。

 親と話すように、叔母と話すように、常連客と話すように。

 妹と話すように、みくはミケと話していた。

 それが、突然、話せなくなった。

 みくは何が起こったのかわからなかったし、だからこそ、何度も何度も試したのだ。

 これはミケがふざけているだけだ。ただの悪ふざけだ。そう思おうとした。

 だが、ミケがそんなことをする性格ではないことは、みくがいちばんわかっていた。

 今までずっと、ミケの気持ちがわかったみくだからこそ、そんなわけがないとわかっていた。

 それでも、それでも、それでも……みくにとって、ミケと話せなくなるということは、認めたくないことだった。

 認めたくなくて、認めたくなくて……でも、やっぱり、わからなくて。

「にゃあ」

 ミケが鳴く。

 しかし、みくの耳には「にゃあ」としか聞こえない。

 それ以上、何も、わからない。

 みくにとって、ミケは大きな存在だった。

 自分の肉親と言ってもいいような、そんな存在。

 それなのに――今、そんな肉親の気持ちが、みくにはわからない。

 こわかった。

 ただ、ただ、こわかった。



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