過去ログ - モバP「週の半ばの燃えない煙草」
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22: ◆30lx83ehPU[saga]
2016/09/23(金) 12:54:23.71 ID:Ntvj8yobO
「格好悪いなんてこと、ないよ」
「……………」
気を遣うな。そう言おうとした。
だが彼女の真剣な瞳を前にして、これ以上そんな巫山戯たことは男には言えなかった。
だから散々逡巡した挙句、
「…ありがとう」
それだけ返した。
彼女は「送ってくれてありがとう」と言って、傘を開きながら車から出た。
助手席のドアが閉まったのを確認して、エンジンを掛け直す。アクセルを踏もうとしたところで、助手席の窓がノックされた。
音の方向に目をやると、男の予想通りの彼女だった。
忘れ物でもしたのだろうか、男は窓を下ろした。
「Pさん」
「忘れ物でもしたか」
「ううん…えっとね」
彼女は遠慮がちに、だけれど強い意志を感じさせる瞳で。
「私、頑張るから…だから、一緒に頑張ろう…ね」
彼女はそれだけ言って、返事も待たずに家の中へと消えていった。
男はブレーキを踏んだまま、背もたれに身体を投げた。
全く、やっぱり格好悪い。
けれど、彼女をあんな素敵な笑顔に出来るなら。
きっとこれでも安過ぎる。
男は疲れた身体に喝を入れ、事務所に向かってアクセルを踏む。
濃い隈を刻み、眉間に皺を寄せ。
だけれど口元には、隠し切れない笑みを含んで。
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