2: ◆ExcbJR30iQ
2016/09/26(月) 19:02:43.69 ID:sTcc0G5v0
…アイドル。それは少女達の憧れであり、永遠の夢だ。光り輝くステージでかわいい衣装を着て踊り、見る者達を魅了する。世俗的でありながらも、どこか神秘性をもつものだ。
10年前、とある事務所に50人ものアイドルが誕生した。彼女達は紆余曲折な道のりを経て、Sランクアイドルへと至った。これは彼女達の10年後の姿を見る物語である。
3: ◆ExcbJR30iQ
2016/09/26(月) 19:03:32.39 ID:sTcc0G5v0
「ティンとくるアイドルが最近いない…ですか。」
12月、木枯らしが吹く寒々しい外の世界を写したかのように、765プロ事務所内は閑散としていた。
4: ◆ExcbJR30iQ
2016/09/26(月) 19:04:24.77 ID:sTcc0G5v0
「うむ、そうなのだよ…。街を歩いていても、ティンとくる娘たちがいない。最近改めて彼女達の凄さを思い知ったよ。」
10年前にデビューした50人のアイドル。後にその輝きからミリオンスターズと呼ばれた彼女達は、今や各々の道を歩んでいる。
「僕も最近、あいつらに会ってませんね。元気にやってるのかな。」
5: ◆ExcbJR30iQ
2016/09/26(月) 19:05:08.16 ID:sTcc0G5v0
「経営的にはまだ問題ないといっても、このままでいいわけもない。久しぶりに765プロ主催のオーディションでもするかね?」
「オーディション、ですか。ティンとくる人と、逢えるといいんですけどね…」
6: ◆ExcbJR30iQ
2016/09/26(月) 19:05:53.42 ID:sTcc0G5v0
ミリオンスターズがアイドル業界に伝説を残して次々と引退してから、765プロは燃え尽きたかのように活動を休止していた。最初は純粋に大仕事を終えて休んでいた部分もあったが、それからは新しいアイドルが増えなかったからだ。オーディションもしたし、養成所からの移転も募った。スカウトも積極的に行おうとしたが…実りはなかった。ミリオンスターズのような輝きを感じることができなかったのだ。そんなことを繰り返していたら、マスコミやネットの住民に過去の栄光にしがみつき、その幻想を追おうとしている最低な事務所だと揶揄され、次第に765プロへの所属募集自体が減っていった。
7: ◆ExcbJR30iQ
2016/09/26(月) 19:09:17.11 ID:sTcc0G5v0
「俺だって、分かってるんだけどな。あいつらが凄すぎただけなんだって。」
魅力的だった、そう思う。一人一人が確固たるものを持ち、自分の魅了を最大限にファンに伝えていた。キラキラしていた。だからこそ、失った時の喪失感は酷かった。アイドル、特に女性アイドルには、期限があるということは理解していたつもりだった。だがその現実は、俺の胸に想像以上のしこりを残していた。
そうして沈んでいると、声をかけてくる女性がいた。
8: ◆ExcbJR30iQ
2016/09/26(月) 19:09:48.91 ID:sTcc0G5v0
「なんて顔してるんですか、プロデューサーさん。」
「ああ、志保か…」
北沢志保。ミリオンスターズの一員であり、アイドルを引退した後は765プロ専属のトレーナーになってくれている。…現状は仕事が無いに等しいのだが。今は、髪をさらに伸ばして、腰まであるストレートになっている。
9: ◆ExcbJR30iQ
2016/09/26(月) 19:10:51.07 ID:sTcc0G5v0
「ちょっと昔のことを思い出していただけさ。心配かけて悪いな。」
気を遣わせないように、務めて明るく言う。
「……。変わりませんね、プロデューサーさんは。」
10: ◆ExcbJR30iQ
2016/09/26(月) 19:11:35.58 ID:sTcc0G5v0
「うん、そうだな。俺はお前達より一回り大人だから、背負ってたところもあったんだろうな。」
「過去形じゃなくて、今もですよ。分かってるんですか?」
訝しげに、軽く怒ったような表情で志保は言ってくる。その表情に、なぜかほっとした。
11: ◆ExcbJR30iQ
2016/09/26(月) 19:12:06.99 ID:sTcc0G5v0
そうだ、これは俺自身の問題だ。過去の栄光にしがみつき、離れようとしない未熟性を、幼児性を未だに改善していない。いや、むしろ改善しようともしていない俺自身の問題なのだ。
12: ◆ExcbJR30iQ
2016/09/26(月) 19:12:46.20 ID:sTcc0G5v0
「しょうがないんじゃないですか、それは。」
少し照れたようにしながら、志保はそう言う。
「しょうがない…?」
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