過去ログ - 【ひなビタ♪】霜月凛「やまびこ」
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5: ◆khUorI/jDo[saga]
2016/09/28(水) 18:45:04.23 ID:tZz1LPe6o
「心配というなら私は貴方のほうが心配ね……最近随分と練習量を増やしているでしょう。
 お店の手伝いもあるのだし、時間よりも効率を重視したほうがいいわ」

「あ……夜遅くにごめんなさい。うるさかったですか?」

「耳を澄ましでもしないと聴こえないし、気にしていないわ。
 それより……行き詰まっているなら時間を作って見に来てあげるから、睡眠時間は削らないようにしなさい」

「――――はい。ありがとうございます」

 返答の前の奇妙な間が気になって、私はカップを傾けつつこっそりと喫茶店の顔を覗き見た。
整った前髪の隙間、翳りの中で細めた瞳が鈍く光を反射している。

「……今はバンド単位での活動予定も無いのだし、あまり根を詰める必要は無いと思うのだけど。何か演奏したい曲でもあるのかしら」

「そういう訳ではないんですけど……もっと上手に弾けるようになりたいんです。イブちゃんみたいに」

 その言葉に、私はカップを戻そうとする手を止めてしまった。
喫茶店は自分の発言に驚いたように目を丸めたかと思うと、すぐに気まずそうに視線を落とした。
 最後の一言は、口に出すつもりはなかったのかもしれない――私はそう見当をつけてからようやくカップを戻して、返す言葉を探し始める。

 橙の陽が薄れていく様は、まるで生き物の身体から血の気が引いていくようにも見えた。


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