過去ログ - 【ひなビタ♪】霜月凛「やまびこ」
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6: ◆khUorI/jDo[saga]
2016/09/28(水) 18:50:03.54 ID:tZz1LPe6o
 期待や憧れという感情は、往々にしてそれを抱く人間にとって遠いものに対して生まれる。
手を伸ばしても届かない、一朝一夕では手に入らない……だから人は自分にない素質や能力に期待し、そこに辿り着きたいと焦がれるのだ。

 喫茶店にとっての"イブちゃん"――洋服屋の娘がまさにそうなのだろう。
喫茶店が幼少の頃、今よりもずっと複雑な境遇に置かれていた彼女に光明を与えたのが洋服屋だった。

 私は当時の喫茶店や洋服屋をよく知っている訳ではないが、
喫茶店曰くその頃の洋服屋は『かわいくってやさしくって思いやりがあって、頭よくってかっこいい』少女であったらしい。
この評は喫茶店の主観が多分に含まれてはいるものの、それを差し引いても現在の洋服屋に概ね当てはまるように思う。
洋服屋は軽薄で軽率、加えて愚昧で粗野ではあるが、情に厚く人を惹き付ける愛嬌と裁量を確かに持っていた。

 幼い日の憧れを大人になるまで持ち続ける人間はあまり多くない。
成長して自分の世界を広げていくうちにその憧れがそう遠いものではないことを知るからだ。
それはあるいは、人が子供から大人へと成長するために必要な過程のひとつなのかもしれない。

 しかし、洋服屋は喫茶店の期待に応え続けた。彼女は彼女自身が求める優等生であり続けただろうし、
そのために払う努力をひけらかす事もしなければ必要以上に隠すこともしない人間だった。
喫茶店が洋服屋に焦がれた時から今日この日まで、洋服屋は喫茶店が見ている前でその神秘性を証明し続けてきたのだ。
それは、少し残酷であるようにも思う。

 その憧れが子供の幻想だったならまだ救いがある。けれどそれが本物であったなら、喫茶店はそれに追い縋るしかないのだ。
自分を変えてしまった光から目を背けることは彼女にはできなかった。


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