過去ログ - 【ひなビタ♪】霜月凛「やまびこ」
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9: ◆khUorI/jDo[saga]
2016/09/28(水) 19:05:06.45 ID:tZz1LPe6o
 「あの……りん、ちゃん?」

 瞬間、私は立ち上がって彼女の手を握っていた。自分の行動に驚く前に彼女の手の冷たさと震えにぎょっとした。
内心でもう一度問う。彼女と私は、同じだろうか。彼女を動かしているのは憧れだけだろうか?
大切な友人と同じ場所に居たいという当然の欲求のみが、彼女に無茶をさせているのだろうか?

 私はある少女に光明を見出し、私と父だけの閉じた世界の中から抜け出した。穏やかな暗がりから光の下へ歩みを進めたのだ。
では喫茶店はどうだろう。彼女の居た暗がりは決して居心地のいい場所ではなかった。彼女は確かに穏やかな世界を取り戻した。
しかしそれは、取り戻しただけなのだ。

 ……自惚れてはいなかったか。私は彼女の本質を理解し、彼女の側にいてあげられると思っていた。けれど、同じ場所にいただろうか。
 孤独を愛していた私と、孤独に愛されていた彼女。光を遠ざけていた私と、光から遠ざけられていた彼女。彼女と私は、同じだろうか。

「りんちゃん、どうしましたか? ひょっとして、暗いのがこわいですか?」

 喫茶店はわずかに頬を朱に染めて、困ったようにへにゃりと笑った。強張った手はまだ震えている。表情と感情がまるで釣り合っていない。
私は反射的に口を開いて、すんでのところで言葉を引っ込めた。

 今ならまだ止められる、と思った。私がしようとしていることは私がする必要のないことで、私以外の人間に任せるべきことだった。
そして、それはおそらく洋服屋が適任で、喫茶店にとってもそれが最良のはずだ。
 けれど、私の中の何かがそれを許さなかった。理解できない衝動に駆られて、私は声を押し留める心の弁を外してしまっていた。

「貴方が、怖がるのを――その気持ちが、分かるとは言わないわ」

「りんちゃんたら。私、暗いの平気ですよ」

「違うわ、聞きなさい」

 両手で彼女の冷たい手を包む。喫茶店の笑顔が小さく歪んだのが見えて、私は急いで視線を落とした。
そこに否定の色を見つけてしまうのがたまらなく恐ろしかった。

「私が貴方に光明を与えることはできないかもしれないけれど、私は貴方を肯定してあげられる。もう誰も貴方を置いて行ったりはしないのよ」

 これは洋服屋の役割なのかもしれない。私の役割は喫茶店に理屈を与えて、彼女の目標への道筋を整えてやることなのかもしれない。
それでも、私は言葉を止めなかった。

「貴方の居場所が失くなることなんてもう無いの。それでも怖いのなら私のところにいればいい。
 私は――私だって、貴方をずっと見てきたのだから……」


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