過去ログ - 白菊ほたる「幸せ願う」クラリス「笑顔の偶像」
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3: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2016/10/13(木) 22:26:57.65 ID:mzegZ2Br0
「ふぅ……ちょっと、話しすぎちゃいました」

話し疲れて、ようやく一息。どれくらいの時間が経ったのかなと辺りを見回したけど、時計はどこだろう?

携帯電話……は、ちょっと取り出しにくい。

「えっと、今、何時くらいですか?」

「ああ、そういえばここには時計を置いていませんでしたね。ええと……」

シスターさんは修道服から銀の時計を取り出す。

腕時計じゃなくて、懐中時計。初めて見たけど、確かにイメージにはぴったりでよく似合っていた。

「18時30分、ですわね」

「えっ、もうそんな時間……!?」

教会を訪れたのは5時過ぎくらいだったはず。15分くらいは一人でお祈りをしていたと思うから、それでもなんと1時間以上も私は1人で話していたらしい。

これがもしトーク系のお仕事なら大活躍だ。そんな風に饒舌になれたことなんて一度もないのに。

それよりも今の時間の方が問題で、この季節だと外はもうかなり暗くなっているはずだった。

門限は大丈夫だろうけど、私くらいの女の子が出歩いていたらあんまりいい顔をされない時間帯だと思う。

「す、すみません。私、そろそろ帰らないと……!」

「ええ、その方がよいでしょう。周りにお気をつけて」

「はいっ。今日は本当にありがとうございました。いろいろ聞いてもらえて、嬉しかったです」

深く、しっかりとお辞儀する。こんな簡単な挨拶で済ませてしまうことが申し訳ないくらい、私の心は軽くなっていた。

「いえ、私がしたことなどほんの些細なものです。……ああ、それと。よろしければ、お名前を聞かせていただけないでしょうか」

「名前……?……あっ!す、すみません私、名乗りもしないで……白菊ほたると申しますっ」

これだけ長い間話をしていて、名前一つ伝えていなかったことに赤面しつつ、慌てて受け答え。

落ち着きのない自己紹介も、シスターさんはしっかりと受け止めるように頷いて。

「白菊ほたるさん……ええ、覚えましたわ。私も名乗らなければ、ですね。私はクラリス。……ふふっ、あなたが立派なアイドルになったとき……いつか自慢させていただきますね。こうしてお話をさせていただいたことを」

初めて見る、ちょっと悪戯っぽい笑顔でそんな風に言うのだ。

だから。

「この場所に来て、本当によかったと思ってます。……私、頑張りますから。だから、クラリスさんもほんのちょっぴりでいいので、応援してくれると嬉しいです」

私の最後の言葉も、きっと笑顔で言えたと信じている。



そうして迎えたお仕事がどうなったのか、そんなことすぐに頭から吹っ飛んでしまった。

だって、それを伝えようとして教会を訪れた私が見たのは。

閉じられた門と「この教会は経営難のため暫くの間閉鎖いたします」という、無機質な張り紙。そして。

全く見覚えのない、教会の壁の大きなひびだったのだから。



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