過去ログ - 白菊ほたる「幸せ願う」クラリス「笑顔の偶像」
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4: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2016/10/13(木) 22:28:59.30 ID:mzegZ2Br0
まぶたを開く。

「ぁ……れ…………」

視界が揺れる。ゆらゆら。頭がぼーっとして、うまく働いてくれない。

うれしいことが、そしてひどくかなしいことがあった気がする。こすった目元は濡れていて、ちょっとだけ腫れぼったい。

少しずつ覚醒していく意識はようやくそれを夢だと認識して、私は現実を取り戻す。

「夢……あ、そっか、私……」

そうして次は、取り戻した現実の重たさを思い出した。

ーー疫病神、何度もそう言われた。

思えば、そう呼ばれないほうが不思議だった。

だって私はずっと周りの人を不幸にしてきたんだから。

色んな人を不幸にしながら、でも諦めることなんてできなくて。

アイドルを目指して頑張ってきた、その果てはこの通り。

共演者になるはずだった子から拒まれて、番組の収録はおじゃん。

辛気くさいと言われもした。バーターだったから仕方ないけど、私ひとりじゃ番組にならないって。

それをきっかけに私の居場所はまたしてもなくなって、もう拾ってくれる人はいない。

アイドルじゃなくなったただの不幸な女の子が、公園のベンチでめそめそと泣いているだけだった。

湿っぽい空気は、雨の多い今の季節にこそふさわしい。

でもどうして、今になってあんな夢を見たんだろう。

あの時のお仕事がそんなに印象に残っていたのか。

……ああ、うん。そんなはずない。

あの教会で感じた救われたような気持ちが、忘れられないから。多分今も求めてるから。

そして、それよりももっと、申し訳ないんだ。

あの教会まで私の不幸に巻き込んでしまったことが。

結局シスターさんの期待に応えられないまま、こんな場所でこんな風にしていることが。

あ、だめだ。泣き疲れて寝ちゃったはずなのに、また涙が溢れそう。

「っ、ぐすっ……」

「どうか、いたしましたか?」

「……ぇ…………?」

かけられた声に、顔を上げる。

すぐ目の前。柔和な表情の男性が、かがみこんで私を見ていた。

きちんとした身なりと仕草は、それでいて緊張感を与えない。

不思議な雰囲気の人だった。だからか、何も考えずに応じてしまう。

「ちょっとだけ、つらいことがあって」

「収録でのことですか?」

「え、どうして……それを?」

「その時、近くにいたものですから。ああ、私はこういうものです」

渡された名刺には、知っている名前のプロダクションと、プロデューサーという身分が記されていた。

それはもう私には天の上の存在で、触れられない場所。

それなら、そんな人の心の片隅に、白菊ほたるというアイドルになりたかった少女の物語を置いてもらえるだけでも、幸せなのかもしれない。



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