過去ログ - 高垣楓「夢と現を、月見で一杯」
1- 20
50: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/24(月) 00:15:14.56 ID:s0PoLOR90

 ケラケラと陽気に笑い出した少女に、プロデューサーが少し不機嫌そうに聞く。

「大体、どうしてその……駆け落ちだなんて思ったんだい?」

 すると少女が、また一口お椀に口をつけ、「勘だよー」と笑顔で答えた。

「こんな田舎の寂しい場所にスーツとか、周りから凄く浮いてるしさ。
 おにーさん甲斐性もなさそうなのに、連れてるおねーさんは美人なんだもん」

 少女に「甲斐性なし」と評されたプロデューサーが、悔しそうに「ぐぅ……!」と唸る。
 ……確かに彼は安月給。甲斐性があるかと聞かれれば、素直にうんとは頷けない。

「あら、図星ー?」

「ち、違うよっ! そりゃ、甲斐性が持てるならその方が良いに決まってるけど……だからって、駆け落ちは違う!」

 顔を赤くしながら、慌てて否定したプロデューサーの反応に、少女が一際高く笑って言った。

「じゃああたし、おにーさんに決ーめたっ!」


 そうして少女がグイッとお椀の中身を飲み干すと……そのまま彼女は、星空に溶けるようにして姿を消した。
 驚くプロデューサーのすぐ傍を、一筋の風が通り過ぎる。それを追うように振り向いた彼の視界を、巨大な月が埋めた。

『帰りたいなら、お椀を空にしないとねー』

 黄色い月が、欠けの無い満月が彼を見ていた。

 プロデューサーは震える手でお椀を口に近づけると、夢中でその中身を飲み干した……

 ぎゅっと、固く強く、両目の瞼を閉じたまま。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
60Res/49.76 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice