52: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/24(月) 00:18:54.24 ID:s0PoLOR90
――……ここは……ここは、何処だ?
目の前に立つ、せいぜい四十か五十の男は誰だ? カウンターの上に並んだ、このおでんの什器は一体どこから現れた?
あの少女は? 老人は? ニンジン酒は、甘ったるい黒蜜は、あの月見酒は一体何処に……。
「……プロデューサー、大丈夫ですか?」
呆然とする彼の顔を覗き込んだ楓が、再び心配そうに聞いてきた。
「あ、あの、楓さん? 俺たち、さっきまで屋台の外に……」
「外?」
「え、ええ。月見酒を、飲んでましたよね?」
プロデューサーの言葉に、楓がキョトンとした顔で言う。「いいえ。私たちはずっとココで……お酒は、飲んでいましたけれど」
楓がそう言って、ビールの入ったグラスを見せる。
「寝ている間に、夢でも見ていらしたんですか?」
可笑しそうに微笑む楓に、プロデューサーはただ、黙って頷くしかなかった。
「そろそろ……帰りましょう」
ようやくの思いでそれだけ言うと、会計を済ませて屋台から外へ出る。
「気持ちのいい、夜風ですね」
楓が、風に流れる髪を押さえながら言う。
「……ですね」
曖昧に答えたプロデューサーの見上げた夜空には、白い月が浮かんでいた。
丸く欠けの無い、それは見事な満月だった。
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