過去ログ - サンチョ「坊つちやん」
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72: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:39:53.88 ID:1dmR7XxL0
 私が得物を納めるとそれを見たビアンカがほっとした表情をしているから彼女も同様のことを考えていたと見える。
 見逃してやると云うと悲哀に暮れた表情が一変しておお、ありがとう。この恩は忘れねえと小躍りしている。
 調子の良い態度に腹が立ったのでしかしここの住人の魂を虐げていたのは事実だ、それはそれで落とし前はきっちりつけて貰うと迫るとまた涙目になるから面白い。
 脇に王と王妃の靄が居たので、貴様の都合で罪のない魂が随分苦しんだが何か云うことはないかと問うと申し訳ありませんでしたと私に向かって謝るから、何処を向いて頭を下げているともう一度殴ってやった。



73: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:41:01.83 ID:1dmR7XxL0
 王夫妻と配下に謝罪させた後は再発防止のためにもう二度とこんな事をやってみろ、その時は本当に容赦はしないと耳元で呟くと真っ青な顔になってうんうんと頷いている。
 おれはまた魔界のどこかでひっそり暮らすぜと足早に去るので追いかけて堂々と見送ってやった。
 去り際にひきつった顔であんた、いい大人になるぜと云ってくれたから、当然であろうと返すと苦笑いで去っていった。



74: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:42:00.04 ID:1dmR7XxL0
 親玉の姿が見えなくなると王と王妃がお礼を云ってくれた。礼をする言葉遣いもさっきの悪漢と違って品がある。
 貴方たちのことは忘れませんと云って二人揃って成仏した。後から城の広間で踊らされていた人々もそれに付いて行くように天へ召された。
 気が付けば玉座のバルコニーから屋上の庭園にいるから王夫妻が不思議な力で連れてきてくれたようだが、また降りるのが面倒だなどと思ってしまった。
 ビアンカと縁のある墓も墓碑銘は「ソフィア王妃」となっていたので安心した。
 さて帰るかと息をつくともう片方の墓の上にきらりと光るものがある。「エリック王」と刻まれているその墓の上には大変美しい、全く傷や加工の跡のない天衣無縫の宝玉が置かれていた。
以下略



75: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:43:17.01 ID:1dmR7XxL0
 ビアンカを連れて外へ出ると城にはもうさっきまでのおどろおどろしさがない。
 ぼろい廃墟であることは変わりないが、少なくとも人々の御霊が嘆き苦しむことはないだろう。
 町へ帰れば空はもう白み始めていた。ビアンカが寝る暇がないわねと肩を落とすから今日くらいは寝坊しても好かろうと云うと、それもそうねと笑顔で答える。
 一緒に一事を成し遂げた達成感からか、朝日に照らされたその顔は大変美しく思えた。
 普段あまりしない夜更かしのせいでベッドに潜ると間もなく眠った。
以下略



76: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:44:09.43 ID:1dmR7XxL0
 昼までぐっすり眠って体調は整えたが一方で父がダンカンの風邪をもらって体調を崩したのには苦笑した。
 そりゃああれだけごほごほ喧しい病人と同じ部屋にいれば感染るに極まっている。
 父の体調が治るまでは暇だからビアンカと一緒に外へ出てみると町が大変な騒ぎに包まれている。
 どうも我々の冒険が町中で話題になったらしい。すぐさま何人かが事の真相を訪ねてきたので例の宝玉を出すと露とも疑わずにすっかり信じている。
 話題がすぐに広まるのも人を疑うことを知らぬのもやはり田舎町によくある特徴で私は辟易したが、町人は揃ってよくやったと云って褒めてくれるのでいい気分だ。
以下略



77: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:44:44.07 ID:1dmR7XxL0
 すると顔のそっくりな兄弟が黄色い猫を連れてやってくる。
 何事かと思えば例の豹とそれを虐めていた兄弟である。城での出来事で気を取られていた我々はすっかりそれを忘れていた。
 本当にやるとは思わなかったと片割れが云うがもう片方はやっぱりやったかとでも言いたげな顔をしているからこの差は何だろうなと思った。
 約束は約束なので豹は受け取った。私が口を開こうとすると子供らは一目散に逃げていくから余程豹の怖さを思い知ったらしい。



78: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:45:13.40 ID:1dmR7XxL0
 ビアンカがこの子はどうするのと聞いてきたので野に返す他なかろうと云うと、少し不安げな顔でそれじゃあまたさっきみたような子供たちに虐められるわよと至極真っ当な意見である。
 私が旅をしているうちに人気のない場所に向かうかもしれないからそこで放すと提案すると渋々了承した。
 すると脈絡もなくじゃあ名前を付けなきゃと云い出すから驚いた。逃がすのに名前を付けては情が湧いて逃がしにくくなるだろうに、他人事だからと気にかける様子がない。
 しかし一々それとか豹とかと呼ぶのも不便なので了承した。



79: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:46:15.94 ID:1dmR7XxL0
 ビアンカが四つほど名前を挙げてこれから決めましょうと云う。
 聞けばみな「なかよし四人組」という絵本の登場人物の名前である。
 まあ子供らしい安易な発想だが、私もきっと似た経緯で名付けていたに相違ないからそれに賛同することにした。
 単簡に補足すると、その四人組というのはボロンゴ、プックル、チロル、ゲレゲレという連中の話だ。
 それもそれぞれ性質が全く違っており、似たところが一つもないのにとても仲良しというのだから驚きである。
以下略



80: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:47:20.96 ID:1dmR7XxL0
 一通り遊んで宿に戻るとダンカンとそのおかみがよくやったと誉めてくれた。
 幽霊なんぞに住人の生活が脅かされていたわけでもないのにこう無暗に誉められてもありがたみが薄れる。
 しかしダンカンは父親似で勇気があるなと云ってくれたので嬉しい。
 無鉄砲さだけでなく勇気まで遺伝しているならそれに越したことはない。
 宿でもう一晩夜を明かすと父の体調もすっかり元に戻ったからサンタローズに戻ることにした。
以下略



81: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:48:28.25 ID:1dmR7XxL0
 宿の家族と町人に挨拶をすれば、ビアンカが去り際にこちらへ駆けてくる。
 何かと思えば、しばらく会えないかも知れないからこれをと云って赤いリボンをくれた。
 男子がリボンで装飾するのも変だろうと困った顔をしているとじゃあゲレゲレちゃんにつけてあげると云って尻尾の先に巻き付けてしまった。
 雌雄は分からないがゲレゲレ本人は喜んでいるのでこれで好かろう。



82: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:50:07.70 ID:1dmR7XxL0
 ビアンカがまた一緒に冒険しようねと云うので無論だと約束した。
 絶対よ、と念を押すので絶対だ、と返して手を握ってやると顔が赤くなっている。
 するとお返しと云わんばかりにこちらの額にキスをしてきたのでとうとう二人揃って真っ赤になってしまった。
 周りの大人がひゅうひゅうと囃し立てるので恥ずかしくなって手を放すと、ビアンカが名残惜しそうな目線を送る。柄にもなくこの町に留まりたいなどと思った。
 元気でね、と挨拶を交わしてようやく二人は分かれた。
以下略



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