過去ログ - 武部沙織「みぽりんが……ネットで炎上してる?」
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13: ◆663LzicDVs[saga]
2016/10/23(日) 03:05:05.40 ID:jO3wDwPW0
◇◇◇

 空港の到着ターミナルを、人波を掻き分けるようにして進む。ものすごい混雑だった。普通の空港利用客と出迎えの人々以外に、明らかにみぽりんの出待ちと思われる旗やら横断幕を掲げた人たちがずらりと並んで、しかもどんどん人数が増えてきているからだ。

「早く早く! もー二人とも遅いよー!」

「いきなり当直明けの人間を呼びつけておいてそれか」

 しわくちゃのトレーナーにデニムという恰好でふらふらとエントランスから入って来た麻子は、せっかくの綺麗な髪もぼさぼさなまま、眼の下には隈という形相で私を睨みつける。

「なによもー、疲れてるからってみぽりんの誕生日をお祝いしたくないの?」

「そんなわけあるか。もっと早く教えろと言ったんだ。こういうのはおまえの役目だろ」

「何よそれー!」

「まあまあ、お二人とも」

 黒塗りの高級そうな運転手付き自家用車で麻子をピックアップしてきてくれた華が、いつもの通りおっとりとなだめてくる。

「間に合ったんだから、良かったじゃありませんか」

 華の方は展覧会か何かの後なのか、牡丹柄の可憐な色留袖姿だった。大急ぎで直行してくれた様子なのに、結い上げた髪にもお化粧にも着こなしにも、全く隙というものがない完璧な美人ぶりが麻子と好対照だ。通りがかる海外からの観光客が、オーとか言いながら勝手に写真を撮ったりしている。

「間に合いましたけど、もうすぐ到着時間ですよ!」

 そんな私たちの下に駆けてきたのは、連盟の腕章にグレーのパンツスーツがよく似合った、ゆかりんだった。女子高時代は広がり放題だった天然パーマも、根気強いストパーとヘアスプレーにヘアジェルの効果か、ボリュームは大人しめに落ち着いて後ろに流している。

 みんな、装いも立場も、昔とは違う。ゆかりんも華も背は変わらないけど、大人っぽい身体つきになってるし(まあ麻子は全然変わらないけど)。思えば私たちが出会ってから、もう十年近くが経っているのだ。

 でも私たちには、ぎごちなくお互いの近況を確かめ合ったり、共通の友人を引き合いに会話のとっかかりを探したり、なんていう余計な儀式は全然必要なかった。

「こちらです!」

 ゆかりんの先導で、私たちは走る。着物に草履姿の華に速度を合わせるのにも、わざわざ声を掛けあったりなんかしない。ちょっとぐらい会えない時間があったって、私たちは私たち。以心伝心の仲間だった。



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