7:名無しNIPPER
2016/10/26(水) 01:33:58.70 ID:DdD2BNiL0
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飛び立つジェット機達の機影と、東京湾湾岸の夕景が広がるカフェで、ケーキとコーヒーのブレイクタイム。
俺は唸っていた。
元スチュワーデスの夏美さんの情報網は確かだった。
このチーズケーキ、なかなかどうして、美味い。
甘い物が自然と集まる職場環境にいるため、かなり舌は肥えている筈なのに、そんな舌が驚いた、絶妙な甘みと酸味だ。
洋菓子らしい華々しい甘さでありながら、レモン汁のものだろう、和菓子の様な淑やかさで酸味がしつこい甘さを引き取っている。
思わずケーキを傾けて断面を確認していると、対面からしみじみとした声が聞こえた。
「明日の今頃には…もうライブしてるんだよね」
見れば、折角のチーズケーキに碌に手も付けず、聖來は伊達メガネ越しに遠い目を外に投げていた。
「不安か?……ってのは愚問だよな」
「うん……でも今は、まだ実感が湧かないって言うのが正直なところかな……」
「そうか……」
伊吹担当Pの言葉が頭をよぎる。
『……それ故に気負いしている可能性もありますので、そちらもお忘れなく』
(わかってますよ)
「俺はお前の事を知っている」
不思議そうな視線がこちらを向く。
「お前以上にな。だから言える。……聖來、君なら大丈夫だ」
「Pさん……」
「君は懸命に努力して来た。ぶっ倒れるまでダンスレッスンして、声が枯れるまでボーカルレッスンして、顔が強張るまでビジュアルレッスンだってやった」
「うん、Pさんにはかっこ悪いとこいっぱい見せちゃったね…」
「かっこ悪くなんかない。君が君自身と戦っている姿を、かっこ悪いなんて言わせない」
そうだ。
水木聖來はアイドルになると決めたその日から、いつだって自分と向き合い、戦って来た。
かっこ悪くなんかない。
「むしろ最高にかっこいいアイドルだよ君は」
彼女の中に宿る熱い熱いハートビートが世界すら震わせる事を、俺は信じている。
「だからいいんだよ、実感が湧かないままで。君は普段通りのまま、普段以上の君を魅せればいい」
俺の言葉を聞き、噛みしめるように聖來目を瞑った。
思い出しているのだろう。
今から飛び立つこの国で、これまで積んで来たあらゆる経験を。
ゆっくりと、再び開かれた聖來は、仄かに微笑んだ。
「……うん。ありがとう、Pさん」
「いい表情だ」
いくばくかの憂いを帯びて見えるのは、西陽のせいにしておこう。
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