2:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 17:40:00.94 ID:aK0UkAGEo
 「たくさん星を数えた方が勝ちです」 
  
 ガラス張りの天井の遥か向こうに広がった作り物の星空を指差してあなたは言った。 
  
 今日は年に一度の宇宙展覧会で、私たちの住む街では大勢の人がこの日を楽しみに暮らし、 
 そして夜空を輝かせるためのロケットを飛ばす。 
  
 残念ながら私と楓さんは抽選から外れてしまったから自分の星を見ることはできなかったけれど、 
 たとえ見知らぬ他人のでたらめな星空でも、その多彩で時に独創的な光の粒を地上から見守るのは不思議と心が落ち着いた。 
  
 「負けたらどうなるんですか?」 
  
 「美優さんには今日ここに泊まってもらいます」 
  
 「私が負ける前提じゃないですか」 
  
 ベッドで並んで寝転ぶあなたの方を振り向くと、あなたはもう空に集中して数を数えている。 
 「あッ、ずるい」 
 私も急いで無数の光の粒を数えていく。 
 けれど黒のスクリーンに映し出された人工星は時々制御を失ってゆらゆら移動するから正確にカウントするのは至難の業だった。 
  
 たまに余興で流れ星が横切ったりするとそっちに気を取られてしまい、また最初から数え直すはめになる。 
 頑張って目を凝らすけれど私にはせいぜい一〇〇個が限界だった。 
  
 ふと視線を感じて横を向くとあなたと目が合う。 
 あなたはすでに勝負に飽きて私が一生懸命星を数えているのを満足そうに眺めていた。 
  
 「なに飽きてるんですか。これじゃ勝負になりませんよ」 
  
 「じゃあ美優さんの勝ちでいいですよ」 
  
 「なんですか、それ」 
  
 私が呆れてそっぽを向くと、あなたは体を寄せながらねだるように言う。 
  
 「私、負けましたから。今夜は美優さんの言うこと、何でも聞いちゃいます」 
  
 「じゃあまず私の下着を脱がそうとするの止めてください」 
  
 「もう、いけず」 
  
 「そんな事より、ほら。せっかくの大展覧会なんですから、夜空を楽しみましょうよ」 
  
 星たちは今まさに人々の夢を空に描き出している最中だった。 
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