過去ログ - 白菊ほたる「それは涙ではないのだから」
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1: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/11/27(日) 11:27:10.14 ID:2h7CC88o0
私、白菊ほたるは不幸の星のもとに生まれてきた。

でも、それでも不幸なりに諦めずに夢を追ってきたつもりだ。

初めて入ったアイドル事務所が倒産した時も、次に入った事務所がまた倒産した時も、その後も、アイドルを続けたいという思いは捨てずに頑張ってきた。

先日入った事務所での初ライブで、機材が謎の故障をしてライブが中断されるまでは。

「また私の不幸のせいで……」

新しい事務所は、今まで所属してきたどの事務所よりも暖かった。

プロデューサーさんは、私が不幸体質だということを伝えても受け入れてくれた。

トレーナーさんは、新人の私を見てトレーニングメニューを考えてくれる。

アイドルの先輩たちは、私の不幸を見てもそばに居続けてくれる。

暖かで、心地良い。

ここでなら私も変われるのではないかと、そう思ってしまうほどに。

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2: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/11/27(日) 11:28:36.35 ID:2h7CC88o0
しかし私の夢はまたしても不幸で潰され、よりによってこの素敵な人達を不幸の巻き添えにしてしまった。

プロデューサーさんが、気にしないようにと慰めてくれた。

スタッフさんが、すみませんと謝ってくれた。
以下略



3: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/11/27(日) 11:29:58.86 ID:2h7CC88o0
謝って、謝り続けて、そして関係を終わらせるつもりだった。

それなのに。

「ほたるは悪くない。だから、夢を諦める必要はない」
以下略



4: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/11/27(日) 11:31:16.09 ID:2h7CC88o0
途中からはプロデューサーさんの顔も見ていない。

一方的に無遠慮に気持ちをぶつけられて、きっと嫌な顔をしているだろう。

それとも、聞き飽きてうんざりした顔をしているかもしれない。
以下略



5: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/11/27(日) 11:32:21.64 ID:2h7CC88o0
プロデューサーさんは捲し立てた私に何を思っただろうか。

怒っている?呆れている?驚いている?喜んで、はいないと思うけれど。

しかし恐る恐る見上げたプロデューサーさんの顔は、そのどれでもなく。
以下略



6: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/11/27(日) 11:37:40.46 ID:2h7CC88o0
アイドルが一番やってはいけないこと。

ライブでの失敗、スキャンダル、歌詞を間違える、一方的にプロデューサーさんに愚痴る。

アイドルがやってはいけないことは思いつくものの、それが今プロデューサーさんが言う一番とは思えない。
以下略



7: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/11/27(日) 11:39:06.90 ID:2h7CC88o0
そんな私の横で、プロデューサーさんは観客席の一角を指差した。

「あそこにほたるの名前が書かれた団扇を持ってる人達がいるだろう」

言われてその方向を見ると、確かに「HOTARU」という文字とハートマークが書かれた団扇を持っている集団が見える。
以下略



8: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/11/27(日) 11:40:31.88 ID:2h7CC88o0
「さっきほたるは、夢を抱いていた時間は無駄だったと言っていたな」

「……はい」

プロデューサーさんが話をちゃんと聞いてくれていたことに驚く私の頭に、暖かい手が乗る。
以下略



9: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/11/27(日) 11:41:52.87 ID:2h7CC88o0
観客席をもう一度見る。

不安な顔、退屈そうな顔、心配している顔、楽しみにしている顔。

色んな顔が見えるけれど、一つだけ確かなことがある。
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10: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/11/27(日) 11:48:03.57 ID:2h7CC88o0
「思い出しますね」

一年たった今でも、あの日のことはライブもプロデューサーさんの言葉も全部、昨日のことのように思い出せる。

きっと十年たっても変わらずに思い出せるだろう。
以下略



11: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/11/27(日) 11:49:40.54 ID:2h7CC88o0
ステージの上はびしゃびしゃで、ライトなどの機材もいくつか故障してしまった。

観客スペースはもちろん誰もいないし、それ以前に渋滞などで来たくても来れない状態だそうだ。

私はというと、プロデューサーさんやスタッフさん達と一緒に控え室代わりのテントに避難している。
以下略



12: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/11/27(日) 11:51:50.33 ID:2h7CC88o0
「ほたる、ちょっといいか?」

話し合いが一段落ついたらしく、プロデューサーさんが私を呼ぶ。

私は心の中で先に「ごめんなさい」と言ってから、プロデューサーさんの前に立った。
以下略



13: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/11/27(日) 11:54:12.75 ID:2h7CC88o0
プロデューサーさんも私の我が儘を予想していたのだろう。

驚いた様子はなく、状況を伝えてくれる。

「見ての通り、観客は一人もいない。これから来るとも思えない」
以下略



14: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/11/27(日) 12:04:16.30 ID:2h7CC88o0
だからこそ、私は選ぶ。あの日から一年間、ずっとそうしてきたように。

「歌います。歌わせてください」

「今は観客スペースには誰もいません。たぶん今日はもう誰も来ないと思います」
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15: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/11/27(日) 12:07:11.39 ID:2h7CC88o0
「一曲だ」

プロデューサーさんが溜息まじりに言った。

「天気がさらに悪化するかもわからない。だから一曲だけだ。それでいいか?」
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16: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/11/27(日) 12:09:30.89 ID:2h7CC88o0
そしてライブの準備。

「出来るだけ濡れないように、って言ってもこの雨じゃ無理よね」と苦い顔をする衣装スタッフさんにライブ衣装を着せてもらい。

「すぐ落ちちゃうけど、一応ね」と楽しげなメイクスタッフさんにお化粧をしてもらって。
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17: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/11/27(日) 12:10:26.13 ID:2h7CC88o0
やっぱり観客は一人もいない。

そして全身を叩く雨粒が、ほんの数秒で衣装がずぶ濡れにしたのを感じる。

メイクもきっと酷いことになっているし、私を照らしているライトの一つがジジッという音とともに切れてしまった。
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18: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/11/27(日) 12:11:16.85 ID:2h7CC88o0
激しい雨音にかきけされないように、今日のために練習してきた曲を歌う。

それは感謝の歌。

苦しい時も、悲しい時も、支えてくれた人へと送る心の歌。
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19: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/11/27(日) 12:12:55.40 ID:2h7CC88o0
「ありがとうございました」

歌が終わり、私は観客スペースに向かってお辞儀をする。

やはり、歌が終わっても観客は一人も来なかった。
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20: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/11/27(日) 12:13:40.18 ID:2h7CC88o0
プロデューサーさんを含め、スタッフさん達にはいつも迷惑をかけてしまっている。

今日も無茶を聞いてもらったことについて、改めて感謝をしよう。

そう思って振り向いたのだが。
以下略



21: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/11/27(日) 12:14:41.58 ID:2h7CC88o0
光。

激しい雨が降る薄暗い中、光の玉が浮いていた。

それも一つや二つではない。
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