過去ログ - 小梅「ありがとうを物語にのせて」
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11: ◆REViNqJsY2
2016/11/27(日) 15:16:12.05 ID:Uojde39To
「さ、最初はよく知らなくて、びっくりしたけど……女の子は、その人がとってもいい人だってすぐ気が付いて、好きになったんだ……」
とくん、とくん。私の鼓動ときらりさんの鼓動が重なって、心地よいリズムを産む。雨の音は、もう聞こえない。
「その人はね、すごく頼りになって、いつでも優しくて……」
思いつくままに『その人』のことを言い続ける。延々と続く誉め言葉に、きらりさんがむず痒そうに身をよじらせるのを感じる。でも、もうちょっとだけ我慢してほしい。その女の子がその人のことをどんなに大切に思っているか、いくら語っても足りないくらいなのだ。不器用な私の、精一杯の親愛表現。
「で、でね、その女の人が……あれ?」
そろそろ一区切り、とお話を進めようとしたところで、薄暗闇の世界に淡い光が降り始める。電力が復帰し始めたらしい。久しぶりに感じる蛍光灯は、やっぱり眩しくて。でも不思議と、嫌じゃない。
いつの間にか雨もやんじゃったみたいで、耳をすませば聞こえる、近づいてくる足音とノブを捻る音。きらりさんが「うにぃ!」と私を抱えたまま立ち上がってドアの方に駆け出す。はたして、そこに立っていたのは私たちのプロデューサーさんだった。
すぐ送ってくれる、ということなので、慌てて荷物をまとめて部屋を飛び出す。前を歩くよれよれのスーツと、その後で揺れるポップでカラフルなワンピース。急いで追いつこうと小さな歩幅をあくせく動かしていると、きらりさんがちょっと歩く早さを落としてくれた。どうやって切りだそうか迷っていると、「さっきのお話、途中になっちゃったねぇ」と助け船を出してくれる。
そういう気づけないような小さな気配りを、たぶん何とも思わずにやっているんだろうな。
「うん……でも、あれでいいの……」
このお話に、きっと終わりはないから。
不思議そうな顔をしているきらりさんの手を、そっと握る。いつも通りの柔らかさと暖かさの奥に、誰も気づけないような震えはもうない。途端に嬉しそうな顔をしてくれるきらりさんの大きな瞳を、私はまっすぐに見つめる。
「その……聞いてくれて、あ、ありがとう……これからも……」
一緒にいて、ね。恥ずかしくて消えかけそうだったその言葉が聞こえていたかはわからないけど、きらりさんは「どぉいたしまして、だにぃ☆」と花が咲くような笑顔を見せてくれた。
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