過去ログ - 小梅「ありがとうを物語にのせて」
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2: ◆REViNqJsY2
2016/11/27(日) 15:09:50.51 ID:Uojde39To
「いつか、その女の人が、お引っ越しして……大家さんが、部屋を点検したんだ。そこで……あるはずの部屋がないことに気がついて……壁紙をはがしてみると、釘がびっしり打ち付けられた扉が……」
照明を落とした事務所で、私はぽつぽつと、語りかけるように話す。手に持った燭台の上で蝋燭が、私ときらりさんの顔だけをゆらゆらと危なげに照らし出す。きらりさんの大きな目が、不安そうにきょろきょろ動くのが可愛く見えて、つい口調にも熱が入ってしまう。
「……で、でね……大家さんが恐る恐る、釘で打ち付けられた扉をひっぺがしたの。そしたら……壁全部に……」
一度喋るのをやめると、周りの音が大きく聞こえた。ごくりときらりさんが唾を飲んで、ざぁざぁと窓の外で雨が強く降り続ける。ソファやテーブルのぼんやりした影が炎の動きに合わせ、息づくように微かに揺らめき踊る。怪談を語るにはぴったりのシチュエーションだ。
タイミングを見計らって、こっそり用意していた懐中電灯を付ける。血みたいに真っ赤なセロファンを貼ったそれで、私の顔を下からライトアップ。息を吸って、一息にまくし立てる。
「……おかあさんごめんなさいここからだしておかあさんごめんなさいここからだしておかあさんごめんなさいここからだして……!」
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