1: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/11/30(水) 18:37:56.68 ID:7FZgc2Oz0
ぼくは彼女の笑顔が好きだった。
タタンタタンと、彼女は時々嬉しそうにステップを踏んだ。まるで世界が自分のものだと言うように、細く長い腕を精一杯広げて、彼女はくるっと回って笑うのだ。
紅茶が美味しかったから。ケーキが甘かったから。晴れていたから。月が見えたから。とか。理由なんてなんでも良くて、あるいはどんなことでも理由になって、彼女は嬉しそうに笑いながら踊って見せた。
フレデリカが目の前で笑ってくれれば、中途半端な日々も悪くないと思えるぐらい、ぼくは彼女の笑顔が好きだった。
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2: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/11/30(水) 18:40:11.22 ID:7FZgc2Oz0
偶然と言えば偶然だ。
だけど、その日はなんとなく会える気がしていたのも事実だった。
しんと冷え込んだ夜だった。駅の外に出ると針のように鋭い風に吹かれて、ぼくは周囲の例に漏れず長めのマフラーに顔を隠す。駅周りは黒さを誤魔化すみたいに、暖色系のイルミネーションに彩られ、一年を通して一番の鮮やかさと暖かみを演出していた。どうせなら本当に暖かくしてくれればいいのに。なんて、益体のない独り言を呟いてみる。でも、きっと暖かくなったらなったで情緒がないとか文句を言いそうだから、このままでいいのかもしれない。
3: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/11/30(水) 18:41:38.23 ID:7FZgc2Oz0
自動車の走行音。靴がアスファルトを打つ音。どこかの店から漏れ出た楽しそうな声。輪郭のない喧騒。感傷的になっているのかもしれない。排ガス、雨の匂い、曇り空。信号の点滅。
女性の髪とマフラーが風に揺れた。身を縮こめる行き交う人々は随分と厚着だった。
ぼくは意識して足を前にだす。気を抜けば、もっとどうでもいい情報を掬い上げてしまう。でも、意識を逸らしても逸らしきれなくて、寂寥感を募らせていった。
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