5: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/12/09(金) 22:44:39.62 ID:81cm0N8d0
「私ももう高校生です。つまらないことに拘るのはやめました」
帰りの車中、後部座席に座る橘さんは唐突にそう言った。ルームミラーに短く視線をやると、真剣な眼差しとぶつかった。どうやらここからが本題らしい。
「早く大人になりたかったんです。でも、そう思うことがなにより、子供の証明みたいなものでしたね」
「そう気づけたことは大人への第一歩だね」
「大人になるっていいことばかりじゃありませんね」
「ぼくは子供に戻りたいよ」
ふふっと、橘さんは笑う。ぼくとしては冗談のつもりではなかったけれど、笑ってもらえるのならそれでいい気がした。
その笑顔はちょっと大人びて見えた。
「ねぇ、プロデューサーさん、私はもう気にしませんよ」
「うん? なんの話」
信号が赤く灯る。ゆっくりブレーキペダルを踏んで白線にぴったり止める。
「呼び方です。べ、べつにありすと呼んでもいいでしゅよ」
「…………」
「……いいですよ」
走行音に掻き消されていた喧騒が入り込んで、無言の車内を際立たせた。沈黙は十秒ほど続いて、橘さんはうぅぅと唸りだす。少しして信号が変わった。アクセルペダルを踏むとやけにエンジン音が大きく聞こえた。
「なにか言ってくださいよ!!」
「うん、橘さんは可愛いなぁと思って」
「またそうやって子供扱いして!」
けらけら笑うと、橘さんはため息をついて応えた。
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