11: ◆S6NKsUHavA[saga]
2016/12/15(木) 22:06:33.85 ID:TASUOcfu0
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「ヒィィィィヤッハァァァァッッッッ!!!!」
突然響き渡った嵐のような爆音と獣のような咆哮に、男は思わず手を緩めた。その隙に、社長と呼ばれていた女子高生は掴まれていた手を振り払って距離を取る。どこからともなく流れてくる地鳴りのような音楽に舌打ちしながら、男は再び彼女を捕まえようと足を踏み出そうとし──そこに現れた影を見て思わず足を止めた。
無人だと思っていた滑り台下のドームから、一人の少女が現れた。少女、と辛うじて認識出来たのは、その胸が僅かに膨らんでいたからだ。しかし、その姿は異様を極めていた。目をひく銀髪は生物のように怪しく揺らめき、見開かれた両目は極端なまでに縮瞳して光を拒むように混濁している。伸びきったシャツに磨り減ったハーフパンツ姿の奇怪な少女は、両手に植木鉢を抱えて男と女子高生の間に割って入った。
その姿を見て、女子高生は「まさか」と呟く。
「お前……あのキノコJCか……?」
彼女の呼びかけに、少女──輝子は少しだけ振り返った。女子高生の姿を見て僅かに目を細めると、今度は男の方に向き直ってニタリと笑う。
そして、絶叫が、轟いた。
「この人に手ェ出すんじゃねェェェェッッッッ!!」
「!?」
雑然と響く音楽をも上回る声量に、男も、そして女子高生も硬直した。この小さな体の何処から出てくるのかという程の、圧倒的な迫力。男は気圧されたように体を反らしたが、ややあって落ち着きを取り戻すと先程の笑みを浮かべながら言った。
「君は社長の知り合いですか? 今は仕事の話をしているから、向こうへ……」
「アァン? 人を脅すのが仕事だってェ……?」
「脅しなんて……私はただ社長に……」
そう言って近づこうとする男の目の前に、輝子の手に持った植木鉢が差し出された。そこに生えているのは、まるで人間の指のような形をした奇妙な植物。風に乗って妖しく揺らめく深紅のそれは、生理的なおぞましさを惹起するに足る代物だ。
「な、なんだい、これは」
再び足を止める男に、輝子は口角を吊り上げた。
「お利口さんだな、オマエェ……コイツは私のトモダチの中でも最強の猛毒キノコ、カエンタケだ」
「カエンタケ……?」
訝しげにオウム返しする男。植木鉢を左右にゆっくりと揺らしながら、輝子は歌うように続ける。
「学術名トリコデルマ・コルヌ・ダマ。触れれば皮膚は爛(ただ)れ、名前の通り火炎に晒されたような痛みにもがき苦しむ……小指の先程も口に入れば、十分もしないうちにあの世に行けるぜェ……フヒ……フヒヒ……フヒヒヒ……!!」
まるで悪霊にでも取り付かれたかのような輝子の狂気じみた表情に、男の顔が歪んだ。
「そ、そんな危険な代物を、君のような子供が持っているはずが」
「なら……試してみるかい? 地獄の扉が開いちまうかも知れないけどなァッ!!」
そう言って勢いよく突き出された植木鉢に、男は「ヒッ」と思わず悲鳴を上げながらのけぞった。例えそれが欺瞞だと疑っても、確信が得られない限り触れるリスクは大きい。何よりも輝子の言葉の端々から溢れる自信が、彼に警鐘を鳴らし続けている。
ここから先は、踏み込んではいけない。
男は後ずさりながらも姿勢を正すと、輝子の肩越しにこちらを睨み付ける女子高生に向けて言った。
「社長。また日を改めて伺います。その時には良いお返事を聞かせて頂けるよう……」
「おォととい来やがれェェェェッッッッ!!」
「ぐッ!! ……で、ではこれで」
締めのセリフまで中断させられた男は、そのまま逃げるようにして去って行った。男が逃げ去る様を、輝子は哄笑しながら見送る。彼の姿が見えなくなり、暴虐の重低音が予定されていた一曲にピリオドを打つまで続き──最後の音とともに、輝子はがくりと地面に膝をついた。
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