4: ◆S6NKsUHavA[saga]
2016/12/15(木) 21:56:30.46 ID:TASUOcfu0
話が一段落したら、あの人はなんだか感心したみたいな顔で私に言ったんだ。
「お前、スゲーわ。売れんじゃね?」
「え、き、キノコを?」
言葉の意味がよく分からなくて聞き返したら、あの人は初めて笑った。笑うと、なんだか今までのイメージと全然違って、凄く可愛い人だったな。
「違ぇよ。売れんのは、お前自身だ」
「わ、私……?」
なんだか人身売買みたい話になって戦々恐々としたけど、あの人はちょっとだけ真剣な顔に戻ってこう言ったんだ。
「売れんのは、何もモノだけじゃねぇし。知識、情報、なんなら雰囲気だって売れる。そんで、そう言った形のないものの方がむしろ高く売れんだよ」
「ふ、雰囲気……? そ、そんなものまで」
驚く私に、あの人は事も無げに言った。
「パーティーとかな。あんなもん、食事やら景品やらは単なるオマケだし。客はそこの雰囲気に金を払う。そんなもんよ」
「な、なるほど……」
何となく納得する私に、あの人は満足そうに頷いてから、何故か私の頭の先からつま先まで舐めるように眺めた。視線がくすぐったくてモジモジしてたら、あの人はまたため息をついて言ったんだ。
「素材は悪くねぇのに、残念なくらいダセぇ。売り込むんなら一から全部プロデュースし直さねぇと」
「え……えと……なんか、ごめん……」
急にダメ出しされて、私は何となく謝った。いや、別に謝る必要は無かったんだけど、あの人に何か悪く言われると、謝らなくちゃいけない気分になるんだ。なんだか不思議な気分だけど。
あの人はそんな私を見て、ハッとしたように目を見開くと、何となくバツの悪そうな顔をした。
「……いや、まぁアタシが売るわけじゃないんで。職業病みたいなもん。良い、忘れて」
「う、うん……」
高校生なのに職業病ってなんだろうって思ったけど、なんだか訊きづらい雰囲気だったから、私は返事だけして黙っておいた。多分、色々とやってるんじゃないかな、その、バイトとか。
そうこうしてるうちに、あの人の制服の胸ポケットから小さな電子音が響いた。スマホのアラームだったみたい。時間を見て、あの人は「もう時間か」って呟いてこっちを見た。
「じゃあな。思わぬ有意義な時間だったし、キノコ売りたくなったらお前に訊くわ」
「え、あ、うん……」
私の返事を聞くか聞かないのうちに、あの人はまた風みたいに去って行った。私の住所も知らないのにどうするんだろうって思ったけど、社交辞令みたいなものだったのかなって思い直して、私はそこからまた移動した。道端にいると、また何処からかあの人がやってきて怒られそうだったからね。
その後も、毎日じゃ無いけど、よくあの人を見かけるようになった。流石に道端には座らなくなったから怒られることは無くなったけど、相変わらず一方的に話しかけてきては去って行くみたいな感じだった。でも、私の長いキノコトークにも付き合ってくれたりして、実は割といい人だったのかも知れない。
17Res/30.82 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。