3:名無しNIPPER[saga]
2016/12/21(水) 17:35:41.73 ID:Mbdc4egm0
「……『往生際が悪い人ですね。次は、コレ、使いますから。傷口に塗るのは塩とマスタードのどちらがお好みですか』」
「『口上だけは一丁前だな。死んだって口を割るなとは、初期課程の頃から教育されてるんだよ、私は……!』」
光さんはすぐに役に入り込み、不服従を瞳で物語ります。
あと少しで掴めそう、という言葉に嘘は無いらしく、見事に覚悟を魅せていました。
最初から熱意を振り絞る彼女には、私なりの全力で接しないと失礼かもしれない。
そんな想いを指先に込めて、腕を大きく振りかぶります。
「『コレが口先だけ、とでも?』」
努めて冷静を装い――しかし挑発した彼女を踏みにじるよう、幾条もの黒縄を叩きつけました。
硬質な先端が彼女に迫り、肩口を連続して打ち据えます。
跡が残らないという触れ込みが嘘みたいな破裂音がパシパシと鳴り、光さんは身悶えして嘆息しました。
「『ぁあっ! ……どうした、口先だけじゃないところを見せるんじゃなかったのか?』」
それでも彼女は苦痛に溺れず、拷問されても折れないエージェント*へ昇華させます。
……問題なのは、そう演じてることがさっきまで仕事と関係なかった私ですらわかることでしょう。
悶え苦しむことを表現しようとするあまり、わざとらしさが鼻をつくんです。
もちろん過剰表現にはなってなくて、物語の緩急に合わせた適切な痛がり方だとは想います。
けれど、そう強く意識してしまってるからこそ役への没入が阻害されてしまって、それ故に、こんな荒療治を欲するほど追いつめられてしまったのかもしれません。
……なら、私に手助けしてあげられることは一つです。
足りないリアリティを補えるくらい露悪的に振る舞い、彼女の感性を引き出すんです。
「『お望み通りに、してあげます。――さっさと吐いたら、はぁっ! どうなんですかっ』!」
台本の指定以上に語調を荒げ、思い切り鞭をふるいます。
脚先をぱしりと打ち据えられて、光さんは苦鳴を漏らしました。
激痛が付き走ってる声を耳にして、けれど良心の呵責に囚われてはいられません。
これは光さんの為にしてるんだ。
彼女が求めてるからしてるんだ。
私は善行を為している。
呪文みたいに言葉を反芻し、光さんに痛みを与え続けました。
「『いや、っ! だぁっ……!』」
痛々しい叫びの合間に、彼女は台詞を喋ります。
そんな彼女と練習してくうち、気付けばその言葉を掻き消すみたいに鞭を振るうようになっていました。
「『どうしたんですか、はぁ、はぁ……、へばっちゃったんですか……? 口だけだったのは、はぁ、どっちでしょうね、ふふ……』」
私の方こそ役に夢中になってたみたいで、わざと噛んで含めるような口調で読み上げるほど入れ込んでいました。
しかし一方の彼女はというと、後に続くセリフを読み上げません。
ひゅー、ひゅーっと半端に呼吸するばかりで、口をぱくぱくさせてるだけです。
「……どうしたんですか? 聞こえませんが」
それらしいアドリブで訪ねてみても、返るのは葉音よりか細い声。
反応が遅れたことに焦燥を煽られて、頭がはっきりする現実感と引き替えに鞭を放り、彼女の肩を揺さぶりました。
「! 光さん、大丈夫ですか、光さん!」
「んっ……うん、だいじょうぶ……」
弱々しい声で、返事が返ってきます。
長時間痛みに晒された体は悲鳴をあげていて、ぴくぴくと弛緩を繰り返してました。
頬は風邪をひいたみたいに真っ赤に火照り、美しい瞳は焦点を定められず、零れそうなほどの涙滴を滲ませてます。
調子に乗って彼女を傷つけてしまった。
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