過去ログ - 茄子「にんじんびーむ♪」
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11:名無しNIPPER[saga]
2016/12/31(土) 13:49:22.58 ID:tFwGSLOi0
 私は三つ目のケーキに手を伸ばそうとして、事務所の片隅にいたその子に気づきました。

 彼女はケーキを食べるわけでもなく、プロデューサーさんのところに行くわけでもなく、ただじっと手元を見つめていました。

 わいのわいのと盛り上がる事務所の中で、そこだけ空気が違っていました。

ちひろ
「どうかしたの、舞ちゃん」

 舞ちゃんは顔を上げると、明らかにそれとわかる作り笑いを浮かべて見せました。


 舞ちゃんはとてもいい子です。目端が利いて、周りに気を遣える子です。人に心配をかけたくなくて、ときどき無理をします。ですから舞ちゃんが何を言おうとしているのかはよくわかりました。

ちひろ
「なんでもない、なんて言わないでね。そういうのは、いいの。話してくれる?」

 先を取ると、舞ちゃんが開きかけた口を閉じました。なんでもない、という言葉はこういう子に言わせてはいけないのです。一言でも言ってしまえば、舞ちゃんはなんでもないことなんだと自分に言い聞かせてしまいます。自分が拳を握りしめていることさえ、なんでもないことだと思い込んでしまうのです。


「……アイドルって、残酷ですよね」

 ようやく絞り出した声は、もうすでに泣きそうなくらいに、か細く震えていました。


「ライヴの映像を見てればわかります。撮影した人が、編集した人が、どんな目で私たちを見ているのか。そうです、これはお仕事ですから、人気のある人を映さないと意味がないんです。それはわかってるんです。

 でも、わかってても辛くて……どんなにレッスンしても、どんなに頑張っても、敵わない人がいて……なのに、その人と同じ場所で戦わなくちゃならない。戦わなければ、アイドルでいられないから……生き残れないから。

 私は、強くなりたいんです。凛さんみたいに、言いたいんです……プロデューサーさんに、一番だって。あなたのアイドルのなかで、私が一番なんですって……でも、できなくて……私、全然、映ってなくて……自分がどれだけ弱いか見せつけられて……。

 聞きたいんです。本当は、いますぐにでも。私はどうでしたかって。でも、できないんです。怖いんです。覚えてないって言われたらと思うと、足が動かないんです。だって、いまのプロデューサーさんは小っちゃくて、私が誰かもわからないんです。だから、あのライヴ映像を見て、思ったままのことを言っちゃうじゃないですか。プロデューサーさんにとって、私が本当はどう見えているのか……それが、怖いんです……!」



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