過去ログ - 茄子「にんじんびーむ♪」
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7:名無しNIPPER[saga]
2016/12/31(土) 13:45:45.78 ID:tFwGSLOi0
 ミトンをはめてダッチオーブンを持ち上げます。おっとこれは重い。腰に来ますね。ちょっとウサミンパワーを出さないと辛いです。

 えっちらおっちらと、鶏肉の塊が入った鉄の塊を運びます。いや、開けてのお楽しみとは言われましても、クリスマスにダッチオーブンを引っ張り出してきてまで作る料理と言ったらローストチキンしかありませんし。あ、なるほど。子供たちに聞かれても答えないで、ということですか。蓋を開けるときのワクワク感も、料理のだいご味ですからね。

 そんなわけで事務所に戻ってきました。奈々が運ぶダッチオーブンに気づいた人は自然と道を譲ってくれます。お気遣いいただきありがとうございます。ありがとうございます。いえ、ですが、あの、皆さん。もっと自分の作業に集中していただいてもいいんですよ? でないとほら、ね? いい匂いがしてきて、大きな鉄鍋を持った人がドアから入ってきて、モーセさんみたく人込みを割っちゃうとですね? ほら、やっぱり子供たちはガン見するわけですよ。ええ、ええ!

 案の定、着ぐるみを着込んだプロデューサーさんも、ナナを見上げてるんですよ。というか目が合いました。うん、ダメですこれは。あはは、プロデューサーさんに、ナナってバレちゃいましたね。あはははは………………はは。マズイですねぇ……どうしましょう。

 テーブルの上の鍋敷きに、ダッチオーブンを載せます。ゴトリと重い音を立てて鎮座するその姿は、年季の入った地肌と相まって、調理器具を超えた貫禄を醸し出しています。うらやましい。ナナもこんな風に何事にも動じない心がほしいです。本当に。

P
「……奈々お姉ちゃん?」

 懐かしい声でした。ナナはPくんに向き直ると、覚悟を決めてマスクを外し、決めポーズを作ろうとして……やっぱりやめました。

 口元に持って行った指をゆっくりと下ろして、ふわふわの髪をそっと撫でます。

 言いたいことはいくつもありました。でも、言葉にできたのはたった一つだけ。

奈々
「……いい子にしてた?」

 Pくんが抱き着いてきました。この年頃の男の子は容赦がありません。頭突きをぶちかますような勢いでしたが、何とか受け止めて、声もなく泣きじゃくる小さな身体を抱きしめました。

 あたたかくて、柔らかくて、ほっとする匂い。懐かしさに包まれながら、私は全身に突き刺さるアイドルたちの視線に耐えます。

 留美さんと美優さんがぬくもりの感じられない目くばせをしています。凛ちゃんとまゆちゃんが、色のない目でじっとこちらを見つめたまま、何やらささやき合っています。藍子ちゃんがデジカメの電源を落としました。一眼レフを持て余していた美波ちゃんも無表情です。薫ちゃんや莉嘉ちゃんでさえ、ふくれっ面をしていましたし……舞ちゃんに至っては、とても子供とは思えないような冷たい目で、うっすらと口元に笑みを浮かべていました。

 針の筵といいますか。四面楚歌といいますか。まあ、絶体絶命ですね、コレ。

 机の上のダッチオーブンだけが、あたたかく私を見下ろしていました。



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