過去ログ - あなたの物語を。トエル 『氷菓』
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131: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 21:00:51.85 ID:fiJYedV+0
「アルファベットにするだけでいい。『To eru』えるに」
千反田の伯父である関谷純の氷菓と似ている。
確認したことはなかったが、ひょっとすれば関谷純が千反田の母親の兄なのかもしれない。
132: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 21:01:29.11 ID:fiJYedV+0
「母は、あの絵をわたしへ」
千反田が独りごちる。どこかで、蛙の野太い鳴き声が聞こえた。
腕時計にちらと目をやると、時刻は七時をまわろうとしている。
133: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 21:01:57.19 ID:fiJYedV+0
「俺がお前の母親に伝えますと言ったのはこのことだ。
額縁に収められた物語について、俺が何を語ろうとそれはお前の母親の言うとおり、俺が感じたものにすぎない。
あとはお前がそれをどう受け取るかにかかっている」
134: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 21:02:33.04 ID:fiJYedV+0
夕焼け空が、艶かしい色合いへと移り変わっていく。
夜の闇が、その異なる色相を幾重にも別けて積み重なっている。
待ちかねた星々がまばたきを始めた。このような時間帯をトワイライトタイムと呼ぶらしい。
135: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 21:03:07.91 ID:fiJYedV+0
「けどな千反田、お前の父親の解釈だけは、さっきお前の母親によって否定されてしまったんだ。
お前の父親は母親の過去に引け目を感じすぎているのかもしれない。
その過剰な憐憫の眼差しが作品を鑑賞するための審美眼を曇らせてしまっていた。
136: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 21:03:42.04 ID:fiJYedV+0
「母は、わたしに幸せでありなさいと言ってくれました」
両の手を胸の前で重ね合わせた千反田の姿は、まるで祈りを捧げているかのようであった。
その瞳が細められ、千反田があどけなく相好を崩す。
137: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 21:04:20.77 ID:fiJYedV+0
「それにお前の父親は自由に生きろ、好きな道を選べとお前に言ったんだよな。だったら……」
これ以上は俺の語ることじゃない気がした。
今日の俺は、やはりどこかおかしかったのかもしれない。
138: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 21:04:47.31 ID:fiJYedV+0
「夏休みはまだ長い。考える時間ならたっぷり残されているさ」
胸にストンと落ちる。これぐらいの言葉が、俺にはやはりちょうどいい。
139: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 21:05:35.80 ID:fiJYedV+0
「はい。折木さん、今日は本当にありがとうございました」
千反田が礼を述べ、ゆったりとお辞儀をする。そして、頭を上げると、おもむろに身体ごと背後へ振り返ってしまった。
もう、俺には千反田の表情は伺えない。今、こいつはどんな表情をしているのだろうか。
140: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 21:06:02.05 ID:fiJYedV+0
残光が千反田のシルエットを縁取っていく。
千反田が、今も祈りを捧げてくれていればいいのにと思う。
与えられた物語へ、これから紡ぎ出す自らの物語に、
141: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 21:10:57.87 ID:fiJYedV+0
終わりです
読んでくれた方がいればありがとうございました。
誤字脱字もですが、改行等も下手くそだったかもしれません申し訳ないです。
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