過去ログ - 北条加蓮「カフェに1人で来た日の話」
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5:名無しNIPPER[saga]
2017/01/20(金) 18:52:05.92 ID:8rfcpivt0
あのぉ、と。

思い出し笑いをしているところに、恐縮そうな声が左側から聞こえた。
……もしかしたら私、結構危ない人っぽくなってる?
コーヒーをお願いします、と口早に告げた。口の右側が引きつっているのを見せたくない。
いつもの店員はぺこぺこと頭を下げながら、あー、あー、とさぞかし今気づいたかのように裏返った声をあげる。それから、恐縮そうに尋ねてきた。

今日は、いつもの――

そこまで言ったところで、はっ、と伝票を持っていない方の手で口を塞いだ。
タブーに触れてしまったかのような反応。胸の奥底で黒ずんだ思い出がせり上がってくる。
"腫れ物"には、触れてはならない場所がたくさんあることを、私よりも私の周りの人の方が気にしていたことを、思い出してしまったから。
目尻が下がるのが分かって、左手の人差し指と中指で自分の頬を軽くつまむ。
……うん。大丈夫。

今日はそういう気分だよー、と軽口を1つ。別にケンカした訳じゃないよ、と笑みを作ってみたら、店員は見ていて気の毒なくらいに胸を撫で下ろした。
コーヒーですね、とやや裏返った声で反復し、私が何か言う前にさっさと立ち去ってしまった。
いつもの「ごゆっくりどうぞ」という一言がない。
もしかしたらいつもの言葉は私にではなく藍子にかけられていたのではないだろうか、なんて邪推に、今度どうにかして困らせてやろうかと小さく思った。残念ながら何をすればあの店員は困ってくれるのか私は知らないし、そもそも店を出る頃には忘れてしまっているだろうけども。



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