過去ログ - 2月の昼下がりに橘ありすと話すことについて
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10: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/02/07(火) 19:46:30.43 ID:0cqd1nr10
 「今日は土曜日だと思っていたんですが」

 「ああ。僕もそう思う」

 彼女が投げた簡潔なクエスチョンは、言外になぜ僕が休日なのに事務所で寝こけていたのかという、もう一つの疑問をくるんでいた。
 我ながらに、察しの悪いふりをして質問をはぐらかすのは少し悪趣味だと思った。
 少し分厚い本を閉じて、彼女がこちらに向き直る。

 「なにをしていたんですか、プロデューサーは」

 「ありすの方こそ。どうして休日なのにこんなところへ?」

 「静かに読書できる場所として、ここをよく利用しているんです」

 そう言って彼女は、許可証をかざすようにペーパーバッグを掲げてみせた。

 「そんなに気合の入った装いで?」

 「その後に買い物に行く予定もあったので」

 「お目当てのものは見つかったかい」

 「フェリシテの新作のプリンを買いました」

 フェリシテというのは、ここから歩いて十分ほどの距離にある洋菓子店で、彼女のお気に入りの店でもある。
 僕は彼女がフェリシテに向かう姿を想像した。緩やかな日差しの中を、たった一人歩くその後ろ姿を。
 どういうわけか、僕の想像の世界に登場する彼女は、いつも後ろ姿から始まる。
 そしてその彼女がこちらを振り返ると、いつもの表情がそこにはある。

 恐らく僕と接する時にだけ浮かべる、フラットな表情。
 機嫌の如何に関わらない、彼女のその表情は、自然体でいる瞬間に浮かべられることを僕は知っている。


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