過去ログ - 一ノ瀬志希「フレちゃんは10着しか服を持たない」
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◆Freege5emM
[saga]
2017/02/13(月) 02:40:22.48 ID:bfxHdujzo
「志希ちゃんは……『赤と黒』って小説、知ってる?」
「……相川さんが話してるのを聞いたことぐらいなら」
「それは知らないって言うんだよ。その『赤と黒』の主人公は、こんなコト言うの」
――二十のころは、世界ということと、その世界でどういう成果をあげるべきかということが、なにごとにもまさる関心事なのだ。
「20歳にもなるとね、自分なりに世の中で何をできるか――つまり自分がこの世の中にいる意味――を、考えたくなるのよ。
何かしなきゃ、なんて焦燥感に突き動かされるの。でも20じゃ力も金も立場もない。だからほんのちっぽけなこともできない。
きっと、フレちゃんもそう考えて、自分のことをちっぽけだと思ったんでしょ」
「でも、あたしはフレちゃんのおかげで――」
「アンタが褒めそやすフレちゃんのいいところは、全部フレちゃんのママンの美点でしょうが。
でもフレちゃんはママのあとを追っかけても劣化コピーにしかなれない。ママの劣化コピーじゃ、
『自分なりに世の中で何ができるか』だって見つけられない……って、気づいたんでしょ。実に若者らしい悩みね」
はぁとさんはフレちゃんと話したこともない癖に、訳知り顔で勝手にうんうん頷いていた。
「はぁとさんったら、普段に似合わず年寄り臭いこと言うよね。26歳かそこらでしょ。
あたし、アメリカの大学ではあなたより年上の研究員と肩を並べてたよ」
あたしが言いがかり気味に噛み付くと、はぁとさんはこれ見よがしに大きなため息をついた。
「だから志希ちゃんは理解しにくいだろうなー。無力感とか劣等感とか縁遠いでしょ。はぁと、アンタと初めて会った時に驚いたよ。
顔に『あたしが本気出したらできないことなんてありませぇん』って書いてあったし。
まぁアンタは実際そうやって人にできないことをやってのけてきたんだろうけど……
もしそんな奴が自分の近くで、自分と同じ立場に居たらどうよ」
「……あっ」
――アタシはシキちゃんと違って、何者にもなれないんだ。ママがくれたものがないと、人並みのこともできないの。
――シキちゃんみたいな――ギフテッドって言うの?――そのそばは……ちょっと、眩しすぎるかな」
「もしかして、はぁとさんも……」
「あーあー、なんでもねぇよ☆ ったく志希ちゃん、アンタってやつは……。
とにかく、ケンカしたならアンタから謝っておきなさい。女の子のほっぺた張り飛ばしたんだから。
そのあとそのフレちゃんが立ち直れるかどうかは、あの子次第でしょ。彼女の人生の問題だもん」
「謝るのは……今日行ってくるよ。家に入れてもらえないかもだけど、直接謝ってくる」
「うん、そうしろそうしろ。あとプロデューサーたちのためにちゃんとクリスマスイベントの準備もしろよ☆」
「でも、さ」
「何、まだなんかあるの?」
「フレちゃんが……『何者にもなれない』なんて、絶対ウソだよね?」
「アンタってやつは本当に……どうして、それをはぁとに聞くのさ」
「だって、少なくともあたしは――」
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