過去ログ - 一ノ瀬志希「フレちゃんは10着しか服を持たない」
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18: ◆Freege5emM[saga]
2017/02/13(月) 02:43:44.04 ID:bfxHdujzo

◇◇◇◇◇

あたしがセンターを務める事務所のクリスマスイベントの控え室に、
関係者枠としてあたしは宮本家御一行を招待した。

「フレちゃんっ!」

あたしはもう衣装を合わせていてメイクも決めていたけど、
フレちゃんのそばに駆け寄って、左右の頬にキスをするヨーロッパ式の挨拶で迎えた。
(スタイリストさんやプロデューサーにぎょっとしていた)

あたしは呼吸も混ざり合おうかという近さのフレちゃんにだけ聞こえるよう、ささやき声を立てた。

「あたしは、フレちゃんが羨ましかった。というか、フレちゃんとマダム・ミヤモトとムッシュー・ミヤモトと、
 つまりフレちゃんたち家族が羨ましかった。あたしもそんな家で育ちたかった」
「シキちゃん……もしかして、ノエル――クリスマスだから、アタシたちを……?」
「まぁ、クリスマスを一緒に過ごして家族気分ってのもあるんだけど、さ」

あたしは数カ月ぶりにフレちゃんのニオイを堪能した。
出会った日と同じ、<ランコム>トレゾァのトップノートの香りがした。

「トレゾァ――Trésorってね、英語でいうTreasureのことなんだ。
 意味は、宝物。それから転じて、大切な人のことを表す言葉なの。
 フレちゃんはママの大切な人、そしてあたしの大切な人。だから『何者にもなれない』なんて、言わないで」
「……シキちゃん、アタシは……」

あたしはフレちゃんの両肩にギュッと腕を回して抱きついた。
なんか周りからチラチラ黄色い声が聞こえてくるけど、もうあたしはフレちゃんしか気にしてない。

「それでもフレちゃんが迷うなら、あたしから一つフレちゃんに提案があるんだ」
「……それ、ここで聞いてもいいの?」



「フレちゃん、アイドルになろう。アイドルになったら、
 フレちゃんは今よりもっとたくさんの人のトレゾァになれる。あたしが保証するよ」

フレちゃんは絶対にアイドルとして上手くいく。
フレちゃんの模倣でアイドルとして成り上がったあたしが、その証明。

「ま、コレはあたしのワガママも含まれてるんだけど」
「シキちゃんの、ワガママ?」

トレゾァ含め、フランス風の香水はトップ、ミドル、ラスト……と、香りが時とともに移ろう。

「フレちゃんと出会った頃のあたしは、トップノート。
 今日これからアイドルとしてステージに立つあたしは、ミドルノート。
 フレちゃんと過ごした時間のおかげで、あたしはこんなにも鮮やかに生まれ変われた」

やっぱり、フレちゃんはずるい。久しぶりに会って再確認できた。
フレちゃんは薔薇色の日々が服を着て歩いてるように、いつも周りをキラキラさせて、
不安に咽ぶ姿さえ、パリで彷徨う『アメリ』の姿よりあたしを強く長く捕らえたまま。

「だからそのお返しに、フレちゃんのミドルノートをあたしが抽き出したいの。
 アイドルやれば、フレちゃんにしかできないことがきっと見つかる――それを一緒に探させて欲しいの」
「……きっと見つかるというのも、シキちゃんが保証してくれるのかな」
「うん、絶対。ぜーったい」



「まぁ、今日のステージで一緒に立つのは、フレちゃんの香りだけで我慢してあげる。
 でもいつかは、あたしと並んでステージに立ってね。フレちゃん」

あたしはフレちゃんの体を離して、あたしを待つステージに飛び込んだ。


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