過去ログ - 一ノ瀬志希「フレちゃんは10着しか服を持たない」
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3: ◆FreegeF7ndth[sage]
2017/02/13(月) 02:26:11.43 ID:bfxHdujzo

出会った日にあたしが見たフレちゃんの姿は、既に今の面影があった。

細く柔らかそうな金髪を少しだけ遊ばせたボブカットで、うなじを毛先がなでている。
横顔でもわかるぱっちりとした碧色の瞳。薄くて体温が透けそうな白い肌。
その肌に輪をかけて白くふわふわとした織りのセーターが、細い肩と首に絡みついて、
シンプルな黒のミニスカートからは、お人形さんみたいなすらっとした足が無造作に伸びていた。

フレちゃんは、他のせわしない新宿の通行人と違って、その場を一歩も動かないまま、
あたしたちの頭上にある何かに視線を注いでいた。
ついあたしもつられて、フレちゃんと同じ方に顔を向けた。

視線の先には、迷路のごとき鉄道路線図が貼られていた。
駅と路線が多すぎて、始めてみたときは――あたし、こう見えて田舎育ちだったから――
新宿が路線図上のどこにあるかさえ探すのに手間取った。



あたしは、フレちゃんの立ち尽くしている理由を合点した。
そして最初に話しかけたセリフが、

「May I help you?(お困りですか?)」

フレちゃんはびくっとしてあたしの方に顔を向け、
あたしの顔を見てから申し訳なさそうに目を細めて、

「そーりー、あいきゃんすぴーく、じゃぱにーずおんりー」
「いやソレ英語じゃん」

あたしたちは、コミュニケーションにあたって割と初歩的な勘違いをしていたのだった。



「うふふ、なんだー。道を教えてもらいたかったんじゃなくて、道を教えてくれようとしたんだね。
 ありがと。でも、大丈夫。アタシ、こう見えて人生の半分以上は東京住まいだから」

フレちゃんに正面からにっこり微笑んでもらって、あたしは内心ドキっとした。

「いやこっちこそ失礼。あたし、てっきり日本語がわからなくて困ってるんじゃないかと思っちゃって」
「アタシったらこんな外見だもんねぇ。実際、半分はフランス人だし」

フレちゃんはそういう扱いに慣れているようだった。あたしはそんなフレちゃんへ勝手に親近感を覚えた。
あたしもアメリカにいた頃は、見た目が完全にアジア人(実際あたしの両親は日本人だし)なので、
謎のアジア言語で話しかけられて困惑した場面が結構あったから。

「それにしても、困ってる外国の人に自分から英語で話しかけるなんて、キミは英語自信あるんだ?」
「そうだね。ちょっと前まで、アメリカの学校にいたから」
「すごいすごい! アタシもちっちゃい頃はパリに住んでたんだけど、フランス語は全然覚えてないや。
 アタシと年変わらないぐらいなのに、すごく勉強してるんだね」

フレちゃんの素朴な感嘆にあたしは二度ドキっとさせられた。あたしはそんな立派なもんじゃない。
あたしは飛び級で入ったアメリカの大学も飽きて辞めちゃったし、帰国して潜り込んだ東京の高校も今こうしてサボってるし、
夕方に始めるはずのアイドルの基礎レッスンも、反復がつまらなくてすっぽかそうとしているのに。

するとフレちゃんは、あたしがこの平日の昼間に新宿の繁華街で高校の制服を着込んでいることに気づいたのか、

「あ、別にイヤミで言ったわけじゃないよ? アタシも服のお勉強してて、
 今日も講義があるはずなんだけど……なーんか、気乗りがしなくって。こんな気分のときもあるよね。
 どう? お暇なら、これからお茶でもしない?」

誘いは渡りに船だった。
乾いた雑踏の中を一人でさまようより、フレちゃんとカフェで一服するほうがよほど魅力的だった。

その日のあたしは朝食も食べていなかったし――家族もルームメイトもいない一人暮らしだと、
適当になっちゃって――あたしは早速フレちゃんとあたりを散策して見つけたルノアールに入って、
カップを片手にモーニングをパクついておしゃべりしたり、お腹がいっぱいになったあとはREMEMBER17を冷やかしたり、
カラオケで客層がまったく読めないようなセトリを作って遊んだり、空が暗くなるまで一緒に過ごした。


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