過去ログ - 一ノ瀬志希「フレちゃんは10着しか服を持たない」
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5: ◆Freege5emM[saga]
2017/02/13(月) 02:27:19.32 ID:bfxHdujzo

あたしが宮本家の肖像を眺めていると、やがてコーヒーの香りがキッチンからこっちまで届くようになった。
濃い。これは濃い。あたしは前にコーヒー党を気取って買って、
2〜3度しか使わないまま放置している自宅のフレンチプレスを思い出した。

そしてフレちゃんは噴水のように香りを惜しげもなく漂わせるコーヒーカップを2つ、
さらにあたしの買ってきたギモーヴを花のように丸く並べたお皿を、それぞれお盆からテーブルに移して、

「マドモアゼル・シキに午後の潤いを――ぼなぺてぃ♪」

と大げさなウエイトレスの真似をしてあたしに勧めてくれた。

あたしはカップに手を伸ばしかけて、その手を宙で止めてしまった。
カップは陶磁器で、ラピスラズリのようなこってりと艶のある青に、桜のような五枚花弁の金彩があしらわれていて、
中の黒く芳しいコーヒーと対を成す瀟洒な装いだった。

「あれ、シキちゃんはもっと薄いほうがお好みだった?」

見るとフレちゃんは、あたしとお揃いのカップでゆったりとコーヒーを楽しんでいた。

「いや、このカップが素敵だなぁって思って」
「これ? ママが独身時代から使ってるんだって。まぁ今はあたしもパパも使うんだけど」
「トレゾァと一緒でママ譲りなんだね」

友達のママの愛用品となると、さすがのあたしもカップを持つ手が強張った。

「トレゾァ――ああ、あれね。香水もアタシ詳しくないからなー。ママがオススメしてくれたのをつけてるだけ。
 でも、ステキって言ってもらえるのは嬉しい。つけるときは、気分もお出かけモードになるし」
「カップも、これだけ立派だとコーヒーブレイクの気分も変わってくる気がするよ」

そう言ってカップを口に運んだりソーサーへ下ろすあたしの手は、
カチンと無作法な音を出したり、縁からコーヒーの雫が垂れて金彩を汚したりしないかと恐れて、
フラスコや乳鉢を扱うかのような厳粛さで動いていた。
隣のフレちゃんが、穏やかでくつろいでコーヒーやギモーヴを堪能しているので、
ますます自分の浮き具合が気になってしょうがない。

「あはは、おカタくなっちゃうのは分かるよ。アタシも、ちっちゃい頃はおてんばで、
 お行儀を仕込むためか、ある時ママがこれを持ち出して『フレデリカ、今日からこれを使いなさい』って。
 馴染むまでしばらくかかったなぁ」

なるほど、フレちゃんの立ち居振る舞いを育てたのはこのカップらしい。

「いやいや、そんなお話を聞いたらますます迂闊には扱えなくなっちゃうよ」
「でも、ステキなものだからこそ普段から大切に使ってあげて、むしろエレガントさを分けてもらおー、
 なんて気分でいれば、このセーヴル先生も喜ぶよ」


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