過去ログ - 【ミリマス】可憐「タバコの香り」
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2:名無しNIPPER[sage]
2017/02/15(水) 03:55:55.96 ID:NYTvGBqi0
コンビニに入ると、私のほうを向きもせず「いらっしゃいませー」と店員さん。
私はまっすぐそこに向かい、
「に、……23番を、お、お願いします」
いつもあの人が言っていたのと同じようにそれの番号を告げた。


3:名無しNIPPER[sage]
2017/02/15(水) 03:56:21.70 ID:NYTvGBqi0
「460円になりまーす」
後ろの棚からそれを取り出した店員さんは、私のほうを見もせずに会計に移ります。
ピッと読み込む音が今日はやけに大きく聞こえました。
「お客さん」
ピッタリ用意していた小銭を取り出そうとした時、いきなり店員さんは私を呼びました。
以下略



4:名無しNIPPER[sage]
2017/02/15(水) 03:56:51.53 ID:NYTvGBqi0
今日ほど自分の容姿に感謝したことはありません。
そうじゃなければきっと買えなかっただろうから。

私、篠宮可憐は今、煙草を買いました。

以下略



5:名無しNIPPER[sage]
2017/02/15(水) 03:57:26.17 ID:NYTvGBqi0
「あ、あぁ。 しかし、驚いたなぁ。 一応吸った後はスプレーだってしてるし、ガムだって噛んでるのになぁ」

「わ、私、匂いにだけは敏感で……」

「そうなのか。 ふぅーん、歌でも、ダンスでもなく、嗅覚ねぇ。 面白いな、篠宮さんは」
以下略



6:名無しNIPPER[sage]
2017/02/15(水) 03:57:53.65 ID:NYTvGBqi0
プロデューサーさんに言った言葉に、嘘はありません。
電車などとかで偶然に嗅いでしまうことがあったタバコの匂いは全く好きではなかったのに、初めて会ったのにその匂いだけはなぜだか不愉快に思いませんでした。

そして私とプロデューサーさんの二人三脚のアイドル活動が始まり、私はプロデューサーさんから様々なことを聞きました。

以下略



7:名無しNIPPER[sage]
2017/02/15(水) 03:58:19.69 ID:NYTvGBqi0
いろんなお仕事をしました。嬉しいことも、楽しいことも。時々恥ずかしいことや怖いことも。
そんな日々だったから思いもしなかったんです。簡単に壊れてしまうだなんて、そんな。
私のはじめてのソロ曲の『ちいさな恋の足音』。それが発売されて一週間もしないうちのことでした。

プロデューサーさんが事故にあいました。
以下略



8:名無しNIPPER[sage]
2017/02/15(水) 03:58:46.68 ID:NYTvGBqi0
思い出を過去の光として埋葬することで、人は前へと進んでいける。
一週間もしたら、事務所は事故が起こる前と同じように動き出したました。
変わったのは、私だけ。
担当プロデューサーがいなくなった私は、琴葉さん、エレナさん、恵美ちゃんのトライスタービジョンを担当しているプロデューサーさんが担当してくださることになりました。
恵美ちゃんとは何度か一緒にお仕事をしたこともあったので、面識はありました。
以下略



9:名無しNIPPER[sage]
2017/02/15(水) 03:59:14.84 ID:NYTvGBqi0
それに、たぶんまだ実感がなかったんだと思います。
お葬式の時は綺麗な死化粧されていて、プロデューサーさんの匂いもなければ死の匂いもありませんでした。
そして事務所にはプロデューサーの匂いが、好きだったタバコの匂いがまだ残ってましたから。


10:名無しNIPPER[sage]
2017/02/15(水) 03:59:41.61 ID:NYTvGBqi0
でもそれは長くは続きはしませんでした。
生きている者は生きている限り、何かを発し続けます。
声だったり、思いだったり、……匂いだったり。
いなくなった者は何も発することはできません。そしてその人が発していたものは一つ一つ消えて、塗り替えられていきます。
薄れていくあの人の匂いをどうにか繋ぎ止めないと。
以下略



11:名無しNIPPER[sage]
2017/02/15(水) 04:00:08.51 ID:NYTvGBqi0
ようやく自分の部屋にたどり着き、私はお行儀わるくベッドに身体を投げ出します。
気づかれなくて、本当に良かった。
警察の人もそうですけれども、ちょっと過保護気味なお父さんとお母さんのことです、私がタバコを買ったなんて知ったら卒倒しちゃいかねません。
誰にも秘密の、知っているのは私とプロデューサーさんだけの秘密であれば。


12:名無しNIPPER[sage]
2017/02/15(水) 04:00:35.35 ID:NYTvGBqi0
それは、なんてことないものでした。
紙に巻かれた草の葉っぱたち。
でも封を切って感じるその匂いは、確かに私が探していたプロデューサーさんとほぼ同じでした。
まだそんなに経ってないはずなのに、何年も嗅いでないようなそんな気分で。
ただこんな時ばかりは自分の鼻の良さに腹が立ちます。限りなく同じなのに、何が違う、どこが違うというのが分かってしまう。分からなければ幸せな匂いに包まれて終わったのに。


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