過去ログ - モバP「理想のアイドルが欲しい」
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3:名無しNIPPER[saga]
2017/02/17(金) 22:43:57.56 ID:gv0pEbdy0
「ああ、俺のことだけを認めて、褒めてくれるような奴はいないか」
そんなアイドルがいたなら、仕事だって張り切って出来るかもしれない。
ないものねだりは百も承知。それでも、現実逃避には充分だ。
俺は新品のノートにひたすら理想のアイドルを描き始めた。絵の心得はなかったから、ひたすら言葉を紡いだ。仕事終わりの憂鬱をぶつけるように、ノートに妄想を刻む日々は続き、気づいた時には、姿のないアイドルのことが書かれたノートが数冊、自分の机に積みあがっていた。
容姿から性格、年齢、出身地、こんな仕事をしたら、あんな格好をさせたら…自分の妄想が事細かに乱暴な筆致で綴られていた。少し読み返すと、自分の生み出したノートの異常性に息が詰まるが、次第にそれもなくなり、空想のアイドルに想いを馳せる。
「ああ……」
彼女のことを呟こうとして、思い当たる。
彼女には、名前が無かった。
これはいけないと思い再びペンを手に取るが、どんな名前も、頭の中の彼女にはふさわしくない気がした。まるで自分の子どもに名前をつけるような、悩むことが楽しくてしょうがない時間だった。
帰宅してから悩みぬいた四時間。針は午前三時を指している。俺は何冊目かのノートに、彼女の名前を、ゆっくりと、線を上からなぞるように書く。愛しい五文字。
俺は、彼女の名前を呼んだ。
「呼びましたかぁ?」
後ろから声が聞こえた気がした。聞こえるわけはないのだが、とても鮮明に美しく響いた気がした。いや、最早気のせいではない。俺はそのことを他人事のように確信していた。
恐怖と期待が織り交ざったまま俺は振り向いた。そこには、俺が書いた通りの、理想から寸分の狂いもない、可憐な少女が――。
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