過去ログ - ウルトラマンオーブ 【僕たちの翼は真っ白】
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15:名無しNIPPER[sage saga]
2017/02/23(木) 22:33:44.38 ID:aSwZMWdb0

「君は手がきれいだよね」

 と言ってみたことがある。練習が終わって風介と拓実がトイレに行って、久しぶりに二人きりになった時のことだ。

「ありがとう」

 ギターをケースに仕舞いながら静かな声で彼女は答え、いつもの柔和な笑みを浮かべた。
 その笑みだけでこの殺風景な練習室も別世界に変わるような錯覚を僕は覚えた。

「雪花石膏みたいだ」

 こんな歯の浮くようなことが言えたのもたぶんそのせいだと思う(思いたい)。
 でも事実として彼女の手は美しかった。新雪のような美しい肌、冬の梢のようにほっそりとしながらも蜘蛛の脚のように軽やかに動き回る指、そしてマニキュアを塗らなくても薄いピンク色に染まっている形の良い爪。
 それらが重なり合った彼女の手は奇跡の結晶としてアラバスターの彫刻を僕に思わせるのだった。

「でもわたし、あなたの手も好きだよ」

 僕は目をぱちくりとさせた。冗談かお世辞だろうかと思った。
 僕の手は肌も荒れているし毛の処理もしてないし爪の形は悪いし一般的なベーシストのそれとはまるで乖離していたからだ。

「あなたが弦をはじくと、鳥があるくの」

「それは僕の指が鳥の足のようってこと?」

 ルリ子は笑みを浮かべたままこくんと頷いた。

「カラス?」と僕は訊いた。ルリ子は首を振った。

「サギ」と彼女は答えた。

 その後彼女は「ヘレン・スウィンダラー」という曲を書いた。
 クロサギが自らを白いカラスと偽る曲で、デモテープとして売ると一瞬にして売り切れた。オークションを見ると三万円で落札されていた。

「カラスは黒いものじゃないの?」と僕は訊いてみた。ルリ子は首を振ってこう答えた。

「カラスは真っ白なの」



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