5: ◆jZl6E5/9IU[saga]
2017/03/09(木) 01:34:52.89 ID:MdTGKv9W0
稲城「話は最後まで聞いてくれ。それで、あいつは君が羨ましいとも言っていた」
ミュトス「羨ましい?」
稲城「ああ。黒騎はね、高校に入るまで、数学は…いや、算数か。とにかく、引き算までしかできないような男だったんだ。当時は液状化のせいで教育の手が足りなくて、あいつは必死になって毎日を生きるだけだった」
ミュトス「……」
稲城「それでもあいつは、私に会ってからというもの、私の話す言葉の意味を知りたくて、真剣に勉強を始めた。あいつはひたむきだった。俺に追いつこうとするために、頑張って、頑張って、頑張って。それで、結局あの通り、叩き上げで警部補にまで上り詰めた」
陽「そうだったんですか…」
稲城「そんな黒騎からすれば、君は羨ましくてしょうがないそうだ。今の自分よりも、昔の、引き算しかできなかった頃の自分と同い年くらいの君の方が遥かに賢く、多くの知識を持ち合わせている。でも、そんな君にも足りないモノがあるのも知っている。だから、手を伸ばしたい、とね。かつて、私があいつに手を差し伸べたように」
ミュトス「…勝手だね。私は、望んでこんなことになったんじゃない。私からすれば、あの人の方がよほど私よりも恵まれているよ。頭のおかしい連中のせいで自由を奪われたりもしなければ、振り回された挙句に一人で残されたりもしない……。共に暮らす家族だっていたんだろう、あの人は。それなら、バカなりに十分なくらい普通の人生を送れているんだよ。たとえそんな背景があったとしてもね」
陽「妹さんは生きてるって分かったんでしょう? 次郎くんにも、普通の人生を送る機会は十分にありますよ」
稲城「差し出がましいことを言うがね、家族がいないとしても、これから作っていけばいいことだ。血の繋がりだけではないよ、家族というものは。分かりやすい例なら、誰かと婚姻を結ぶこともあるだろう」
ミュトス「私は、別に…妹が…彼女さえいれば、それでいい。あんな人なんていらないし、ましてや結婚なんか、絶対しないしね」
稲城「そうか……人生は長い。私と違って、君には選択の幅がある。決め付けずに、よく考えることだ。私という反面教師が、君の目の前にいるだろう? 私は多くのことを決め付けて、独善的にやってきた。これがその結果さ」フッ
陽「稲城さん…」
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