過去ログ - 椎名法子「ドーナツの神様」 【ウルトラマンオーブ×シンデレラガールズ】
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名無しNIPPER
[sage saga]
2017/03/14(火) 19:39:20.24 ID:af2LNM0O0
喉がもうからからだった。唾を飲み込むと熱した棒を突っ込まれたかのように痛んだ。
胃に落ちる唾液がまるで滝壺のような音を立てた。「キィ……」。この音は、何?
首筋の違和感はとれない。それは向こうからやってくる。肩の向こう。背中の後ろ。
「キィ……」
少女は足を動かした。「キィ……」。骨が軋む。「キィ……」。
「キィ……」。自転車が音を立てる。「キィ……」「キィ……」「キィ……」。
頭の中に、耳の奥に、それはどこまでも入り込んでくる。「キィ……」。
少女は一心不乱に足を動かす。走り出す。「キィ、キィ、キィ、キィ」これは自転車の音。そうだ。だから――
「キィ、キィ、キィ、キィ、キィ、キィ、キィ、キィ、キィ、キィ、キィ、キィ、キィ、キィ、キィ」
息がおかしくなる。声を上げようと一瞬思う。喉が痛い。呼吸が安定しない。声が出ない。
出さなきゃ、出さなきゃ、出さなきゃ。何で出ないの? 何で何で何で何で何で?
「キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ」
いや、やめて、来ないで。どうして振り切れない。首の周りの違和感は。
鳥肌が収まらない。全身から冷や汗が噴き出ている。眩暈がする。視界が回転する。
――ガッシャアアン!
「キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ」
くるくるくる……。タイヤが回る。
「キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ」
足が痛い。身体の脇が痛い。転んでしまったのだ。倒れてしまったのだ。
「キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、
キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、
キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、
キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、
キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ、キィッ」
はあっ、はあっ、はあっ……息が荒い。もう整えられない。整えようとする考えすら頭になかった。
どうすればいいの、来ないで、逃げなきゃ、何、この音は何? 「キィッ」 この音は、何なの?
「キィ……」
頭の中で音がした。首がひとりでに動いていた。ぎこちなく背後を向いていた。視界がそれについていく。
暗い夜道。ぽつんぽつんと悲しげに佇む街灯。荒涼とした建設地と運動場。背後の道。
……誰もいなかった。
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