2:名無しNIPPER
2017/04/02(日) 09:18:45.25 ID:8+rDTmig0
入院先の父と話がしたいという彼を見送り、ひとり残された私は、緑茶の残りを煎じて一口いただきました。
携帯にはことりからのメールが届いており、お色直しの算段について滔々と語っていました。
文面から彼女の声や表情までもが浮かびあがるようで、返信を書きながら、最近ことりの声をよく聞くようになった、と気づきました。
『海未ちゃんが一番なんて、ちょっと意外だったかな』
おとついの夜、彼女は酒に顔を赤らめてそんなことを言いました。私たちの中では、婚期が一番遅れそうなのは私だと思っていた。
そう、あからさまに白状することりに、私は怒ることもできずにむむむとうなってしまうのです。
思えば昔からそうでした。あの子は、私以上に私のことを見抜いていたように思うのです。
だから……こうして気を使って、言葉や声を絶やさないのかもしれません。
唇を刺すほどの熱もゆるみ、薫り高い苦みが喉を潤していきます。
湯気の立ち上る天井は、外が薄曇りで陰っているせいでしょうか、切れかけた照明の光もやけに低く感じられます。
なんとなく、はしたないことですが、私は湯飲みをそこに置くと、背中を横たえて畳の上に仰向けに寝転がってみます。
自分ひとりの呼吸や心音まで聞こえるほど静かな部屋のなか、あの明かりの方へ手をのばしてみたのですが、そこに手は届かず、雲間に遮られたような弱々しい光がさらに遠く感じてしまいます。
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