3:znAUHOH90 2[sage]
2017/04/05(水) 00:56:17.31 ID:znAUHOH90
「奏えー……」
「…………」
「奏さーん」
「…………」
機嫌が直らん。
撮影が終わって引き上げてきた直後、お疲れさまと言っても「ありがと」と言ったきり一言も話さなかったり、演技を褒めても「そ。」と、冷たい目で済まされたりとした時にはどうしようかと思ったが、楽屋に戻って様子を見ているうちにだんだんとわかってきた。
怒ってるんじゃない、拗ねてる。
椅子に腰掛けて足を組んで頬杖を突き、つーんとそっぽを向いたまま黙っている。これが怒ってるときは大概、面と向かって自分の思うところをキッパリ言ってくるか、無言で爪の手入れやバッグの整理を済ませてさっさと現場を離れようとするかのどっちかになる。
つまり、このお姫様のお気に召すことをして差し上げれば、冷たい表情も晴れてこっちを向いてくれるのだが。
ふだん手がかからないだけに、こうなるとどうしたものかな。
「……はあ、わかったよ。奏。」
「……」
「知られたら嫌われると思って、黙ってた。けど、それでごまかせるわけないよな。すまない」
無言。流し目。
目力あんだよなあコイツ。顔が整いすぎてるから特に。
「……事務所の冷蔵庫に入ってたお前の分のゴージャスセレブプリン、食っちまったのは俺なんだ……周子ちゃんと周子Pが食ってたから食っていいもんだと思って食っちまった。必ず埋め合わせする。許してくれ。」
「…………」
「…………」
「……はあ。本当ばかね、あなた。」
……俺の寒い冗談がウケたというわけではなさそうだが、努力は認めてくれたらしい。
溜息をついて、しかめっ面して立ち上がる。射竦めるような迫力のある鋭い顔――――――
「――――――おうっ」
ぼすん、と、胸に大きく振りかぶって放たれた正拳突きが飛び込んできた。
ウチの事務所の武闘派連中が時折ガチで放ってくるソレみたいなもんじゃない、怖さも殺傷力もまったく無いゲンコツだが。
「さっき違う事務所の子と話をしてたでしょう。」
「そりゃ、共演者と世間話くらいするさ。」
「それで今日の私のハイライト見逃したのね。」
「う……」
「知ってるのよ。わかるんだから。」
すとん、と、胸元に頭を預けてきた。
「違う女の匂いがする。」
お前はデレプロの凛ちゃんかよ。怖いわ。
「……怖くなるの。ひょっとしたら貴方がどこかに行ってしまうんじゃないかって。捕まえていて欲しくて、見ていてくれないと不安で……」
押し付けられるわずかな重み、両腕にすっぽり入りそうな細い肩。
服越しに吐きかけられた、熱い吐息。
「――――――なんてね。フフ、ちょっと焦った?」
こうやって、すぐに悪戯っぽく笑って顔を上げるのはわかっていたけど。
それでも一瞬、目眩がした。
「タチが悪いぜ」
「あうっ」
宙に浮いた両腕をごまかすように、ぼすっ、と台本で頭をはたいた。
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